プロとしての歩みを始めた選手
しかし、サンペールは確かな実戦経験を積み上げてJリーグへも適応し、怪我続きのキャリアを乗り越えていく。
来日1年目の2019シーズンはJ1で24試合(先発20)1618分間出場し、2年目の2020シーズンは同26試合(先発23)1816分間の出場で1年目に記録しなかったアシストも2本を記録。来日3年目の今季はここまでチームが消化したJ1リーグ19試合中16試合(先発15)に出場。プレータイムも半期で1193分間に達し、すでにキャリアハイの3アシストを記録。充実の時を迎えている。
2019年7月3日に行われた天皇杯2回戦のギラヴァンツ北九州戦で、サンペールはゴールを挙げた。実はそれがプロキャリア初のゴールだった。つまり、彼は神戸でほぼ初めて「プロサッカー選手」としての歩みを始めた選手なのだ。
「セルジ・サンペールとはどんな選手なのか?」との問いには、バルセロナの人々よりも我々日本人の方が詳しく答えることができる。この優雅なピボーテ(アンカー)がプレースタイルを確立していく選手としての成長譚を日本で見ることができるのは幸せなことである。
ただし、ポジション的にも役割的にも得点に絡むことは少なく、地味な存在だ。球際の守備でも強さではなく、ポジショニングや巧さでボールを奪い切る。それゆえ、未だに過小評価されている感は否めない。
周りの選手を良い条件でプレーさせられる選手
サンペールを観ていて筆者がいつも心を奪われるプレーがある。それはイニエスタ等とのバルセロナらしい華麗なショートパスの連続による崩しやゲームメイクではない。「運ぶドリブル」だ。
「優れた選手とは味方に良い状況(スペースと時間)を与えられる選手である」とは、数々のポジショナルプレーに関する著作を上梓しているスペイン人指導者、オスカー・カノ・モレノ氏の言葉である。相手が動かなければ、ボールを持っている選手がドリブルで前にボールを運び、相手を引き付けてからパスを出すこと。相手を引き付けることでマークがズレて、スペースが出来る。そのスペースへ味方が動いて、そこに素早くパスを出していく。要は「ボールや味方よりも、相手を動かすこと」が目的なのだ。
世界最高と称されるマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も「ボールを持ったら相手が動くまでパスを出してはいけない」と指導している。サンペールの「運ぶドリブル」にはそれらが見られる。
イニエスタのような華麗なボールタッチからのドリブルでの持ち運び、ブスケツのような的確なポジショニングセンスとエレガントさを、足して2で割ったようなサンペールのプレーはまさに、周りの選手を良い条件でプレーさせることが出来ているのだ。
そんなサンペールにはイニエスタをも凌駕していることがある。欧米人にとってとても難解である日本語の習得である。6月23日に開催された明治安田生命J1リーグ第19節、ホームに横浜FCを迎えた試合で5-0の“マニータ”(スペイン語で5本の指)による快勝後、サンペールは自身のSNSアカウントで「初めて日本語で記者会見」と綴り、インタビューに全て日本語で答えた動画を掲載した。
大好きなフットボールで巧みにボールを扱うように、日本語も綺麗に扱い始めたサンペールは日本でとても幸せそうだ。
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