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Jリーガーが欧州から買い叩かれる現実。北野の移籍金もブラックボックス

北野颯太 写真:Getty Images

毎シーズン、Jリーグ中盤戦真っ只中にクラブ期待の若手選手が海を渡る例が繰り返されてきたが、今2025シーズンは6月に、セレッソ大阪の20歳FW北野颯太がオーストリア1部のレッドブル・ザルツブルクに完全移籍を果たした。

北野の移籍金は公式には明かされていない。しかし、2023年からの3年契約があと半年で切れること、北野自身の年俸が推定1,100万円だったことから、激安価格で移籍に至ったのではないかという見立てがなされている。移籍金は、クラブとの契約が何年残っているかに大きく左右される。契約の残り年数が短い選手に対しては、交渉で不利な立場に置かれる。

今や欧州で活躍する日本人選手は、マイナー国を含めると100人を超えると言われている。しかしながら移籍金を古巣に残して移籍する選手はごくわずかで、その額も選手の実力に見合わないほどに安い。もちろんブラジル人選手やアルゼンチン人選手と張り合えと言うつもりはないが、欧州のマイナー国やアフリカ各国、さらには韓国などの「人材輩出国」と比較しても、Jリーグ出身選手の移籍金の相場は、客観的に見て安過ぎる。

ここでは、Jクラブから欧州クラブに移籍した際の移籍金について、複数の側面から深掘りする。


南野拓実 写真:Getty Images

日本人選手の市場価値

例えば韓国では、韓国代表DFキム・ミンジェが2019年に中国スーパーリーグの北京国安に移籍したが、その際に全北現代モータースに支払われた移籍金は540万ユーロ(約7億円)だった。その後、2021年にトルコのフェネルバフチェにフリー移籍し欧州上陸。2022年にイタリアのナポリに移籍する際には2,000万ユーロ(約28億円)もの移籍金が発生した。

ミンジェは、セリエA最優秀DFにも選出される活躍を見せナポリ優勝に貢献した実績が買われ、2023年にはアジア人歴代最高額の移籍金となる5,000万ユーロ(約78億円)で、ドイツのバイエルン・ミュンヘンと5年契約を交わした。育ててくれたクラブに大金を残し、自らも努力の末に市場価値を上げた理想的なケースだ。

現状、日本人選手で移籍金最高額を誇るのは、2019年に3,500万ユーロ(約56億円)でポルティモネンセ(ポルトガル)からアル・ドゥハイル(カタール)に移籍した元日本代表FW中島翔哉(現浦和レッズ)で、2位は2000年に2,170万ユーロ(約34億7000万円)でペルージャからローマに移籍した(いずれもイタリア)中田英寿氏(2006年引退)だが、中田氏の場合は時代が違い過ぎる点、中島に関してはカタールリーグという特殊なケースであることから参考には出来ないだろう。

3位の、2020年に850万ユーロ(約13億6,000万円)でRBザルツブルクからリバプール(イングランド)に移籍した日本代表FW南野拓実のケースが、事実上の日本人選手トップといったところか。

中島がポルティモネンセに移籍した際の移籍金は公表されていないが、中田氏がペルージャに移籍した際にベルマーレ平塚(当時)に支払われた移籍金は推定350ユーロ(当時のレートで約4億2,000万円)。南野が2015年にC大阪からザルツブルクへ移籍した際の移籍金は、120万ユーロ(約2億円)と推定されている。


伊藤洋輝 写真:Getty Images

Jクラブから欧州移籍の際の相場感

Jクラブから欧州のクラブへ直接移籍する場合、その選手の移籍金は数千万円から高くても数億円(100万~300万ユーロ)の範囲に収まることが大半だ。南米の若手選手であれば、欧州初挑戦でも1,000万ユーロ(約16億円)を超える移籍金がつくことも珍しくない。

比較的高額で海を渡った日本人選手の例を挙げてみる。

  • 古橋亨梧(ヴィッセル神戸からセルティック):約540万ユーロ(約8億5,000万円)
  • 三笘薫(川崎フロンターレからブライトン):約300万ユーロ(約4億7,000万円)
  • 田中碧(川崎フロンターレからデュッセルドルフ):約100万ユーロ(約1億6,000万円)

また、6月5日にアウェイで行われたW杯アジア最終予選オーストラリア代表戦(パーススタジアム)にA代表初先発を果たしたMF鈴木唯人は、2023年に清水エスパルスからデンマーク1部ブレンビーIFに移籍した際の移籍金が500万デンマーククローネ(約1億円)ほどで、ドイツのフライブルクに移籍した際の移籍金は800万ユーロ(約13億円)ほどと報じられた。

一方、安さを象徴するのが、日本代表DF伊藤洋輝のケースだ。2022年にジュビロ磐田からシュトゥットガルトにレンタル移籍した際、買取オプション行使で数十万ユーロ(数千万円)だったと言われている。2024年に、シュトゥットガルトからバイエルン・ミュンヘンへ移籍の際の移籍金は3,000万ユーロ(約51億円)となっている。

Jリーグから移籍した選手が、わずか2年でその市場価値を数十倍に跳ね上がったという事実は、Jリーガーの金銭的評価がいかに低いかを雄弁に物語っている。なぜJリーガーの移籍金は安くなりがちなのか。これには、複数の構造的な要因が複雑に絡み合っている。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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