Jリーグ サガン鳥栖

躍進サガン鳥栖のサッカーとは。ACL初進出に期待する理由

MF小屋松知哉(現サガン鳥栖)写真提供:Gettyimages

クリエイティブな5人の技巧派MF

鳥栖サッカーの内容面で興味深いのは、本職を2列目とするクリエイティブな技巧派MFが多いことである。直近のJ1第24節の浦和レッズ戦では、アンカーの樋口、インサイドMFの白崎凌兵と仙頭啓矢、2トップの1角に小屋松知哉、左WB中野嘉大の5人が先発でプレーした。ドリブラー型とパサー型に分かれるが、センス溢れる彼等5人はドリブルもパスも巧い。

ドイツ代表のメスト・エジルやイングランド代表のジャック・ウィルシャー、スペイン代表サンティ・カソルラ、チェコ代表トマシュ・ロシツキー、ウェールズ代表アーロン・ラムジーなど5人の技巧派MFが共存したアーセン・ベンゲル監督時代のアーセナルを想起させるが、一般的なチームではこのタイプの選手を2人共存させることですら議論が起きる。3人でも多過ぎる。

仙頭と1つ後輩の小屋松は、京都橘高校時代の「第91回全国高等学校サッカー選手権大会」(2012年度)で準優勝し、共に得点王を獲得。京都サンガでも同僚としてプレーしていたユニットとしての連携力がある。浦和戦ではアンカーを担った樋口は、この位置からの方が持ち味のパスセンスをチーム全体で有効活用できるのではないか。今月になって緊急的に期限付き移籍で獲得した白崎は181cmの上背もあり、フィジカル能力にも優れる。攻撃時はトップ下のような位置でプレーする中野嘉大はもちろん、5人に共通するのは運動量が豊富であることが大きい。

さらに彼らはパス能力も高く、パスワークの妙を読むセンスにも長けている。運動量と組み合わせることで、それが守備でも大きな武器になる。小柄な選手が多いために中盤でのプレスからのボール奪取を前提に守備戦術を組み立てないといけないこともあるが、その整合性はとれている。また、高い技術と運動量をベースに攻守の戦術を練り上げる術は、世界を相手にした時の日本代表の姿とも重なる。

大人気サッカー漫画『キャプテン翼』で例えるなら、彼等5人は主人公の「大空翼」ではなく、10番タイプの翼とゴールデンコンビを組む「MF岬太郎」である。J1で確固たる実績を上げられなかったために岬役に徹しているのかもしれないが「5人の岬君」が揃ったプレーは美しく、流れるようなフットボールで観る者を魅了する。ベンゲル監督が退任した2018年以降は不振に喘いでいる本家アーセナルよりも輝いて見える。


FW豊田陽平(現栃木SC)写真提供:Gettyimages

鳥栖のプレーをアジアでも!

2014シーズンにJ1優勝争いをした頃の鳥栖は、前半戦を首位で折り返しながらも尹晶煥監督(ユン・ジョンファン現ジェフユナイテッド千葉監督)の突如の退任劇などもあって急失速。結果5位に終わったが、それが現時点クラブにとっての最高成績である(2012シーズンも同5位)。

当時はマイボールの時間が短かくも、チーム全員の運動量が豊富で、局面の数的優位を作り続けていた。現在はそのハードワークをベースに、最後尾のGKから丁寧にパスを繋ぎ、攻撃時と守備時で異なるポジションをとる可変型システムの導入などで2年連続してボール支配率も50%を上回る「持てるチーム」に変貌を遂げた。欧州最先端の戦術トレンドの導入は、オランダの強豪アヤックスとの提携の成果もある。

今夏の移籍市場では、MF松岡が清水へ、U-24日本代表として東京五輪を戦ったFW林大地がベルギーのシント=トロイデンVVへ、鳥栖で通算128得点(J1:92得点、J2:36得点)を上げて来たクラブの象徴である元日本代表FW豊田陽平が栃木SCへ移籍するなど、大きな変化も訪れている。しかし、数的優位やポジション的優位など優位性を活かした「鳥栖版ポジショナルプレー」が浸透しているチームは、選手の出入りがあっても大崩れしない安定感を保っている。

さらにこの7月には「もうJ1でもFWとしてもプレーすることはないと思っていた」という、苦節プロ11年目の酒井宣福(ヴィッセル神戸の酒井高徳の弟)が3試合連続ゴールを挙げ「2021明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVP」を受賞。FW山下敬大がチーム最多の9得点を挙げてブレイクするなど、チームには好循環が起きている。

ACLには出場したことがない鳥栖だが、現在の鳥栖のサッカーがアジアの舞台でどう通用するのか?それは鳥栖のファン・サポーター以上にニュートラルなサッカーファンにとっての興味関心を惹く。残る14試合となったJ1では、若手選手が多く活躍する鳥栖のサッカーを楽しみにしたい。

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