CL/EL ラ・リーガ

久保建英も構想内だった?ビジャレアルをEL決勝へ導いたエメリ流ターンオーバー

ウナイ・エメリ監督&久保建英 写真提供:Gettyimages

ベストメンバーがないのがベスト

そんなエメリの専売特許はターンオーバー(ローテーション)である。

セビージャ時代は毎年のように選手の大幅な刷新が行われるため、シーズン前半戦は国内リーグとELで先発メンバーを大幅に入れ替えて戦うスタンスだったが、今季のビジャレアルでもそれは見て取れた。

日本代表MF久保建英(現ヘタフェ)の加入により、日本でも注目が集まった今季前半戦のビジャレアルは国内リーグを優先し、ELのグループステージではサブ組を積極的に起用した。久保がリーグでなかなか先発メンバーに入ることができなかったこともあり、それは日本のサッカーファンでも痛いほど目にしているはずだ。

その久保が今季唯一の得点を挙げたELグループステージ初戦のスィヴァススポル(トルコ)戦では直近のラ・リーガ第6節バレンシア戦から先発8人の入れ替えがあり、直後のラ・リーガ第7節・カディス戦では7人を戻しているのは、それを象徴している。

エメリはよく、「ベストメンバーを見出せていない」と批判されるが、「ベストメンバーがないのがベスト」だと考えているのだろう。それが毎年シーズン後半戦になると、対戦相手によって戦略を変化させ、試合中でもシステムや狙いを変えていける柔軟性となり、選手層の拡充をもたらすのだ。

今季のビジャレアルで10番を着るビセンテ・イボーラは、エメリがセビージャ時代から重用する190cmの大型スペイン人MFだ。彼をボランチで“潰し屋”として起用したり、時にはトップ下でロングボールを収める役を任せるのは、エメリ采配の特徴を表現するものだ。


ビジャレアル時代の久保建英 写真提供: Gettyimages

実は久保建英も構想内だった?エメリ流ターンオーバーの特徴

そして、エメリは年が明けた辺りからELで結果を出した選手も含めて主力を再編し、ELの決勝トーナメントが始まる2月を迎える頃から彼の必殺ターンオーバー策が冴えを見せるのだ。

ただ、グループステージだった前半戦とは違い、決勝トーナメントからはタイトルを本気で狙うELに対しても主力を投入していく采配を見せるため、そこには変化はある。

下記に今季のビジャレアルのEL決勝トーナメント前後の試合からの先発メンバーの変更を列記したので見てもらいたい。

【ビジャレアルのEL決勝トーナメント前後の先発メンバーの入替】

日付:大会・対戦相手(ホームorアウェイ):スコア:前の試合からの先発メンバーの変更数

  • 2/14(日):ラ・リーガ第23節・べティス(H):●1-2:3人
  • 2/18(木):EL決勝T1回戦第1レグ・ザルツブルグ(A):〇2-0:3人
  • 2/21(日):ラ・リーガ第24節・ビルバオ(A):△1-1:3人
  • 2/25(木):EL決勝T第2レグ・ザルツブルグ(H):〇2-1:3人
  • 2/28(日):ラ・リーガ第25節・Aマドリー(H):●0-2:4人
  • 3/5(金):ラ・リーガ第26節・バレンシア(A):〇2-1:2人
  • 3/11(木):ELラウンド16第1レグ・Dキエフ(A):〇2-0:3人
  • 3/14(日):ラ・リーガ第27節・エイバル(A):〇3-1:6人
  • 3/18(木):ELラウンド16第2レグ・Dキエフ(H):〇2-0:3人
  • 4/3(土):ラ・リーガ第29節・グラナダ(A):〇3-0:3人
  • 4/8(木):EL準々決勝第1レグ・Dザグレブ(A):〇1-0:3人
  • 4/11(日):ラ・リーガ第30節・オサスナ(H):●1-2:8人
  • 4/15(木):EL準々決勝第2レグ・Dザグレブ(H):〇2-1:7人
  • 4/29(木):EL準決勝第1レグ・アーセナル(H):〇2-1:2人
  • 5/2(日):ラ・リーガ第33節・ヘタフェ(H):〇-1-0:6人
  • 5/6(木):EL準決勝第2レグ・アーセナル(A):△1-1:6人

ジェラール・モレノ 写真提供: Gettyimages

常に先発メンバーを3人ほど入れ替え続け、過密日程を結果が出ない言い訳ではなく、戦力の拡充に使っている。

それでも上記で対象にした16試合の中でCBコンビのパウ・トーレスとラウル・アルビオル、中盤センターを務めるダニエル・パレホとエティエンヌ・カプエのコンビ、リーグで21得点を挙げるエースFWジェラール・モレノの5人は13試合以上に先発起用されており、固定された“鉄板”である。彼等5人は全員がセンターラインに入る選手であるため、“枝葉”となるサイドバックとサイドハーフ(ウイング)を入れ替え続けているわけだ。

また、ELが進むにつれてリーグで鉄板メンバーを休ませ、ELのタイトルに照準を合わせて来たのも明確である。

久保は主に両サイドのウイングやサイドMFの準レギュラーとして起用され、ELのグループステージを戦ってきた。結果も残していたのだが、リーガでは出場機会が限られた。

前述したエメリ子飼いのMFイボーラが長期離脱をした頃から、ビジャレアルは彼の代役を外国籍を含めて探し始め、外国籍選手の久保は出場機会が急激に減った。久保周辺から移籍話の報道が急騰したのも印象が悪いが、何がキッカケなのか?単純に本人が出場機会を求めただけとも思えない。真相は闇の中である。

しかし、後半戦もビジャレアルでプレーしていればリーガでの先発起用も増えていただろうし、欧州の高いレベルを舞台にした試合を多く経験できていただろう。「ベストメンバーがないのがベスト」であり、攻守のバランスに長けたエメリの下で1シーズンを過ごすことは長くキャリアを積むうえでは有益であると考えられただけに、本当に残念に思う。

ページ 2 / 2