
2025シーズンの明治安田J2リーグは、中盤戦に差し掛かり空前絶後の大混戦の中にある。優勝候補の呼び声が高かったRB大宮アルディージャやジェフユナイテッド市原・千葉、V・ファーレン長崎などの強豪クラブを抑え、現在首位の千葉と同勝ち点の2位で大健闘しているのは、シーズン前には“J3降格候補”とさえ囁かれていた水戸ホーリーホックだ。
J2リーグ第19節終了時点で勝ち点38を挙げ、自動昇格圏に躍進している水戸。同クラブが首位に立つことがあれば、DF田中マルクス闘莉王(当時は日本国籍取得前で登録名は「トゥーリオ」)を擁した2003年以来のことになる。
ここでは、水戸の旋風の核心に迫るべく、その強さの秘密を多角的に解き明かしていきたい。

全てが噛み合った末の、必然の躍進
水戸ホーリーホックは、1994年に「FC水戸」として創設。2000年にJFLからJ2に昇格以来四半世紀にわたり、J1昇格もJ3降格もないJ2最長在籍の“J2の門番”のようなクラブだったが、その道のりは決して平坦なものではなかった。
昇格間もない2001年に経営危機が表面化し、選手の給料未払い問題が表面化するなど存続の危機に瀕した時期もあった。有力選手の売却やサポーターや市民から出資を募る持株会で凌ぎ、西村卓朗GMをはじめとするフロントの尽力と、クラブを支え続けた地域の人々の熱意によって、クラブ消滅という最悪の事態を回避した。
それでも毎年、限られた予算の中で粘り強くJ2の舞台で戦い続けてきた水戸が、現在J1自動昇格圏を快走している。それは今シーズンJ2最大のサプライズと言っていいだろう。
昨2024シーズン、一時はJ3降格の影もちらついたチームが、なぜこれほど劇的な変貌を遂げることができたのか。その要因は決して偶然や一過性の勢いではない。明確な哲学を持つ指揮官の招聘、的確な補強戦略、そしてクラブが長年積み上げてきた揺るぎない土台。全てが噛み合った末の、必然の躍進だった。

最大の立役者は森直樹監督
水戸躍進の最大の立役者は森直樹監督以外にないだろう。クラブOBで、引退翌年の2006年から水戸ユースでコーチ、監督を歴任し、2011年からトップチームのコーチを務めた。そして2024年5月に解任された濱崎芳己前監督の後任として監督に就任。
J3降格圏からチームを見事に立て直し、J2残留というミッションを完遂させた手腕は高く評価されたが、今季の快進撃は、彼の真の能力が「再建」だけでなく「構築」にあることを証明している。
森監督の指導者キャリアは、決して華やかなものではなかった。28歳で現役を引退し、下部組織でコーチを歴任。地道に経験を積んできた苦労人だ。彼のサッカー哲学の根幹にあるのは、徹底した「リアリズム」。自分たちが置かれた状況と保有する戦力を冷静に分析し、勝利の確率を上げるための最も現実的な手段を選択するという考え方だ。
就任当初、森監督がまず着手したのは、崩壊状態にあった守備の再構築だった。彼は選手たちに、ボールを保持することの理想よりも、ボールを失った後の即時奪回と、強固な守備ブロックを形成することの重要性を説いた。昨シーズンは「守備の森、攻撃の樹森(大介氏、現アルビレックス新潟監督)」とされる役割分担で残留を果たしたが、樹森氏が去った今季、森監督は攻撃面の構築にもその才能を発揮する。
森監督が形作った攻撃は、決して美しいパスワークを連続させるポゼッションサッカーではない。基本は堅守速攻だ。しかし単なるカウンター一辺倒ではなく、相手陣形や試合状況に応じて攻撃のスイッチを入れるポイントを的確に見極める。ボールを奪ってからの縦に速い攻撃や計算されたセットプレー、そして相手のプレスをいなしながらサイドに展開する形など、多彩な攻撃パターンを持つ。それらを日々のトレーニングで選手一人一人に落とし込み、状況判断の基準をチーム全体で共有できているからに他ならない。
また、戦術面もさることながら、森監督の真骨頂はチームマネジメント能力にも見ることが出来る。選手との対話を重視し、ベテラン、若手を問わず平等な競争の機会を与える。その公正な姿勢が、チーム内に健全な競争意識と一体感を生んだ。
今シーズンの水戸が見せる試合終盤の粘り強さや、1点を守り切るあるいは奪い切る勝負強さは、勝者のメンタリティーの賜物だ。かつては善戦すれども勝ちきれない試合が多かったチームが、「勝つべくして勝つ」集団へと変貌を遂げた。森監督は、選手たちに自信と、勝利への執着心を植え付けた最高のモチベーターでもある。それは1点差勝ち試合の多さにも表れている。
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