Jリーグ 名古屋グランパス

Jリーグにみる“監督交代”の文化。解任に踏み切れない広島、浦和、名古屋

Jリーグにみる“監督交代”の文化

著者:チアゴ・ボンテンポ

 1年半前、サンフレッチェ広島は史上絶頂期にあった。森保一監督期における最高のサッカーをしており、2015年12月、同監督就任後の4年間で3度目のJリーグ優勝を果たしている。同年のFIFAクラブワールドカップでは準決勝で南米王者であるリーベル・プレートにも善戦した。

 あれから登録選手に大きな変更はないものの、現在広島は降格の危機と戦っている。他の多くの国であれば、このひどい結果を受けて森保監督はすでに解雇されているに違いない。

 たとえばブラジルのリーグでは最初の8節ですでに6人の監督変更が行われ、その数は増え続けているのだ。しかし日本では文化が異なり、たとえ広島がJ2に落ちてなお監督が保持されたとしても驚くことではないだろう。

 森保監督が獲得してきた高い評判を差し置いても、まるで広島はひどいプレーなどしていないかのようにみられている。シュート数を見てみると広島は1位にランクされており(合計183、試合平均12.2)、柏レイソル(181)鹿島アントラーズ(180)浦和レッズ(177)の上をいく。しかしながら、そのゴール率はリーグ最低だ。

 得点数はわずか12で、その下にはアルビレックス新潟(11)ヴァンフォーレ甲府(10)大宮アルディージャ(10)しかいない。2012年、2013年タイトル獲得時の佐藤寿人や、2015年のデャンフレス・ドウグラス・シャガス・マトスボールのような、ボールをゴールネットまで持ち込める選手が欠けている。昨年はピーター・ウタカがいたが、広島は彼を手放した。後継者に賭けたが成功していない。

 新しい得点マシンとして呼び込まれた工藤壮人は次から次へとチャンスを逃し、皆川佑介へとその座を譲る。皆川も186cmという身長以外にほとんど目立ったところがなく、直近4試合に先発出場したものの、J1での11カ月をノーゴールで終えた。

 さらに残りのスターたちも活躍していない。MF青山敏弘、MFミハエル・ミキッチは今季”良い展示”でいるだけだ。DF塩谷司もまた標準を満たしておらず、先日UAEのアル・アインへの完全移籍が決まった。

 今季の数少ないポジティブな選手MF柏好文は、川崎フロンターレとの試合前半でボールが顔に直撃して脳震とうを起こし、救急車でフィールドを去った。等々力陸上競技場で行われた同試合は、広島の2017年を象徴するものだった。プレーは悪くなく、チャンスを多々作り出す。勝つことができたかもしれないが、相手の素晴らしい瞬間によって敗北に終わる。

 森保監督のマジックはもう通用しないだろう。同監督はBプランを持っていない。常に同じ3-4-2-1スタイルでバリエーションがない。前途有望なMF森島司やDF高橋壮也にはベテランが負傷した時にしかチャンスが回ってこない。クラブフロント陣は新しい契約やアイデアのもと、どうにか選手陣を”揺さぶる”必要があるだろう。Jリーグ前半戦が終わろうとしているが、広島はまだ本拠地エディオンスタジアム広島での勝ちがないのだから。

“監督交代”で浮上した鹿島アントラーズ

 浦和のペトロビッチ監督もまた、他国ではもう残り時間が少ないとみなされる監督の一例だ。実際彼の行動はプレミアリーグ・アーセナルのアーセン・ベンゲル監督の長い物語を思わせる。浦和は頻繁に日本で最も強いチームとなるが、同じく頻繁に悪い状況とも行ったり来たりし、欠点の話の方を大きくさせる。浦和が勝つはずの試合で負けるのを見るのは珍しくない。レヴィー・クルピ(前セレッソ大阪監督)が「ラッキーな間抜け」と自称するなら、ペトロビッチ監督は「アンラッキーな天才」だろうか?

 同様に今季の名古屋グランパス(J2)も挙げられる。風間八宏監督はJ2を楽に勝ち上がるための戦力を持ってはいるが、未だたくさんの選手の選出に迷っているようだ。3人のみしか配備できないところ4人いる外国人選手の選出も含まれる。同監督は常にラインナップを変え、フォーメーションを変え、チームのパフォーマンスがなかなか良くならない。現在名古屋は3連敗を喫して8位につけ、試合日4日目以降はじめてトップ6から外れている。

 森保監督、ペトロビッチ監督、風間監督が解雇されるべきだと言っているのではない。監督変更によってクラブが岐路に直面するのは良い結果を導く近道かもしれないが、それも理想的な解決ではない。しかし、この問題に関する日本の文化の良し悪しを語らずとも、ただただ他国とは異なる文化として議論することは有効だ。

 鹿島アントラーズは監督交代に踏み切ったことで成績が浮上した例となっている。

 昨シーズン、石井正忠前監督は悲惨な2ndステージを受けて解雇寸前であったが、理事会が彼の残留を決定すると奇跡的な勝利を収めた。それでも、今季チームは再び期待を下回り、石井前監督に代わり大岩剛監督が任命された。新監督のもと2試合を終えたが、2試合とも前半で3ゴールを挙げる安定した勝利で、Jリーグ優勝を“至上命題”としているサポーターに良いパフォーマンスを届けることができている。
 
 さらにはMFレオ・シルバ、MF遠藤康、FW金崎夢生などが先発メンバーから外れる中、これまでチームの二次的役割であったMF中村充孝、FWウェベルソン・レアンドロ・オリベイラ・モウラ、FWペドロ・ジュニオールといった選手が能力を示した。また、MF三竿健斗やGK曽ヶ端準らの控え選手も層の厚さを保証している。

 監督交代と、新たな指揮官のもとでのポジション争いの激化は、タイトル獲得の野心を持つ鹿島のようなクラブにとってポジティブな要素でしかない。彼らは常にそのプレッシャーに対処しているのだ。