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Jリーグにおける大都市有利のホームグロウン制度に意味はあるのか

宇野禅斗(町田ゼルビア所属時)写真:Getty Images

ホームグロウン制度の欠陥

例えば、今や清水エスパルスで不動のボランチとしてレギュラーを張っているMF宇野禅斗は、福島県福島市出身だ。福島ユナイテッド傘下のU-12チームでサッカーを始めたが、中学から青森山田に進学し、高校まで6年間を過ごしたため、万が一、福島ユナイテッドでプレーしたとしてもHG選手とはならない。

宇野がHG選手としてプレーできるクラブは、前所属(2022-2024)の町田ゼルビアだけとなる(町田から清水に育成型期限付き移籍していた2024シーズンも、町田の「育成期間」に含まれるため)。このようなキャリアを経たJリーガーは数知れず、規定と実情がマッチしていないのだ。

HG制度の罰則規定が復活する2027シーズン、このままルール運用されたとすれば、大都市クラブと地方クラブの差は広がる一方となるだろう。HG選手の数によってはA契約選手の数が削られるのだから、当然の帰結だ。

今年のHG選手カウント基準日となった第1登録期間最終日(3月26日)、町田は4人のHG選手が所属し、かろうじてルールを遵守した形となったが、その直後、GKバーンズ・アントンをロアッソ熊本へ育成型期限付き移籍させた。

町田は同じ手法で、昨2024シーズンも基準日直後にHG選手だったDF奈良坂巧をJ3カマタマーレ讃岐へ、MF樋口堅をJFL沖縄SVへ、それぞれ育成型期限付き移籍させている。HG選手人数をクリアするために一旦在籍させておいて、カウントが済んだタイミングを見計らって移籍させるという意図があったことは明らかだろう。

町田のフロントがルールの穴を突き、違反にならないギリギリのことをしつつ、かつ露骨であるため、「モラルを守らないチーム」という悪印象がさらに強まった一方、HG制度自体の欠陥を浮き彫りにしているとは言えないだろうか。


湘南ベルマーレ 写真:Getty Images

ホームタウン制の是非から考察

HG制度の根拠となっているホームタウン制度(Jリーグにおいて各クラブが本拠地と定めた地域)にも不公平感がある。

県にJクラブが1つの場合、ホームタウンを「全県」とするケースが一般的だが、2つのJクラブを有する福島県(福島ユナイテッド、いわきFC)、栃木県(栃木SC、栃木シティ)、千葉県(柏レイソル、ジェフユナイテッド市原・千葉)、埼玉県(浦和レッズ、RB大宮アルディージャ)、長野県(松本山雅、AC長野パルセイロ)、愛媛県(愛媛FC、FC今治)、福岡県(アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州)では、限られたパイの奪い合いとなり、それは地元出身の有望若手選手の獲得のみならず、スポンサー集めにまで影響する。

神奈川県には現在、5つのJクラブがあるが、中でも湘南ベルマーレはホームタウンを拡大し続け、現在、県西部の9市11町を指定している。チーム名が「bellmare(ラテン語で「美しい海」)」にも関わらず、山あいの温泉街である箱根町までホームタウンにしている。ここまで来ると、まるで“国盗り合戦”だ。

また、町田はホームタウンを「東京都町田市」と限定しているのに対し、FC東京と東京ヴェルディは「東京都」としている。先行してJリーグ入りした特権といえばそれまでだが、大阪府でガンバ大阪が「吹田市など7市」、セレッソ大阪が「大阪市、堺市」、FC大阪が「東大阪市」と棲み分けがなされているのとは対照的だ。

これではFC東京と東京VにHG選手が多くなるのも当然だろう。人口1,400万人を超える東京という世界的大都市をたった2つのクラブで分け合っているのだから、HG選手数の面で有利に働くのは当たり前だ。

ちなみにFC大阪のホームタウン、東大阪市の人口は約48万人。栃木シティのホームタウンは栃木市、足利市、壬生町の2市1町だが、その人口を合算しても約33万人。こうした状況を無視し、“同じ土俵で勝負しなさい”というのは、あまりにも酷な要求とは言えるだろう。

HG制度は、クラブが若手選手を育成することに投資することを促し、若手選手の成長を支援することで、クラブの未来を明るくするために重要な役割を果たしている。しかし、その「ホームタウン」の概念にまで立ち返らなければ、HG制度そのものの不公平感は残り、特に地方クラブの弱体化に繋がる危険性もあるのだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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