貪欲さが招いた批判。でも、だからこそ
その反面チームの勝利に誰よりも貪欲な姿勢が、悪い方向に出ることもあった。J1でこれまでに提示されたイエローカードの数は104、レッドカードの数は12と、どちらも現役の選手では最多。
不用意なカードや疑惑のプレー、危険なプレーも少なくなく、ラストシーズンとなった今季も2つのプレーが大きな議論を呼んだ。第7節のサガン鳥栖戦では、大久保と競り合った鳥栖のファン・ソッコが背後で右足を振り上げるしぐさ。これに大久保が倒れて大きく痛がり、ファン・ソッコにはイエローカードが提示された。だが激しい接触はなく、スペイン紙の『マルカ』や『アス』が取り上げるほど疑惑のシーンとなった。
より問題だったのは第31節の大分トリニータ戦。大分の小出悠太と交錯し倒れたのだが、その際に小出の腕をロックしたような状態に。カードは出なかったものの非常に危険で、大きな怪我に繋がってもなんら不思議でない。DAZNの『ジャッジリプレイ』で審判員ゲストの奥谷彰男氏が述べたように、レッドカードを出すべきプレーだった。
こういったものが大きな批判を招き、素晴らしい記録ほどにはサッカーファン全体から愛されたとは言えない。しかしきっと、何が何でも勝利を目指す言動を行ったからこその得点数なのだ。大久保は自分自身にプレッシャーをかけ、それをはねのけることをエネルギーとしていた。どんな時だろうと何歳になろうと、誰よりもがむしゃらに、勝ちを求める。その姿は間違いなく美しいものだ。
大久保嘉人のホーム最終戦の相手は名古屋グランパス。ルヴァンカップ決勝で敗れた相手に、大久保はスタメンに入り後半40分までプレー。逆転勝利に貢献した。試合後に行われた引退セレモニーでは、セレッソ大阪のサポーターほぼ全てがスタンドに残り、盛大な手拍子を送った。
所属するクラブのサポーターに強く愛され、相手チームのサポーターからは批判を浴びる。それは優れたFWのみに与えられた権利である。ベスト4まで残っている最後の天皇杯で、大久保はJリーグで初のタイトルを狙う。そこまで戦い抜いたのち、引退後は指導者への転身を示唆している。
大久保嘉人の本当の姿
ピッチを離れると家族を愛す、心優しい4人兄弟の父親だ。2015年には抗ガン剤の副作用で髪が抜けるかもしれない妻の不安を減らすために坊主頭に。今年は大阪で三男と2人暮らしを送りながら慣れない家事をこなし、11月22日に行われた引退会見ではすぐに涙が溢れ、レフェリーへ謝罪の言葉も口にした。
故郷も大切にしており、生まれ育った福岡県、中学・高校時代を過ごした長崎県で「ベトレーセサッカースクール」をプロデュース。すでに後進の育成に関わっている。
これらが、大久保嘉人の本来の姿なのだ。過度なプレッシャーを背負う必要のなくなった彼が、今後どういった面を見せてくれるのか。最も目立つ位置にいた最高のストライカーは引退してもなお、人の目を惹きつけていく。
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