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語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

ユーロ2020(UEEFA欧州選手権)写真提供:Gettyimages

ユーロ(UEFA欧州選手権)の存在と拡大

欧州勢の五輪軽視最大の理由は、五輪と同じ年に開催されるユーロ(欧州選手権)の存在が大きい。FIFAワールドカップよりもコンペティション的にハイレベルであると思われるユーロはさらに進化を続けており、4カ国で開催された第1回大会から、1980年大会には8カ国、1996年には16カ国、2016年大会からは24カ国にまで大幅に拡大されてきた。ユーロでこなす試合が多くなるにつれて消耗が激しくなり、直後の日程である五輪は重視すべきではないとの欧州勢としての当然の判断が強まっている。

実際、五輪参加国は全16カ国だが、東京五輪の欧州枠は4カ国のみだった。一方、直近の2018ロシアW杯は参加全32カ国中の14カ国(開催国ロシア含む)が欧州の国と地域で埋まっている。UEFA(欧州サッカー連盟)自体が五輪を重視していない方針が貫かれていると思われる。

もちろん、五輪はFIFA(国際サッカー連盟)やUEFAの管轄ではなく、IOC(国際オリンピック委員会)が主催する大会であるため、選手の拘束力が各国のサッカー協会にないことも大きいだろう。


三笘薫 写真提供:Gettyimages

非欧州圏の日本はどうするべきか

つまりユーロというサッカー界最大のコンペティションに臨む欧州勢は、五輪を重視できない理由がある。南米勢はメダル獲得に貪欲であり、アジアでは特に韓国が義務化されている兵役免除のためもあって必死で五輪に挑んでいる。日本はどうするべきか?

もちろんユーロに関わらないアジア勢の日本は、五輪を重視すべきである。今回は開催国だからこその歴代最強メンバーだったが、基本的には毎回ベストメンバーを揃えるべきだ。なぜなら以下のような理由もあるためだ。

欧州は五輪を軽視しながらも、五輪の結果は高く評価する。特に就労ビザ習得の難易度が高い英国圏への移籍では、五輪の結果により特例が下る可能性も高くなり、クラブ側も英国政府に対して強く要求できる実績になる。

例えばU-24日本代表で東京五輪へ参戦し、3位決定戦でも最後に得点した川崎フロンターレ所属のMF三笘薫。プレミアリーグのブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンへの移籍が内定していると報道されているが、彼にはフル代表経験がないことから英国でのビザが発給されず、ブライトンのトニー・ブルーム会長が保有するベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへ期限付き移籍する流れになるという。もし五輪でメダルを獲得できていたら、特例のビザ取得で即プレミアリーグでプレーできた可能性もあるのだ。


1992年バルセロナ五輪

移籍も軽視の発端に。五輪年齢制限の変更を!

注目すべきは、今回ドイツで頻繁に起きた選手の五輪辞退理由として「所属クラブは合意しているも、直前に決まった移籍先クラブが五輪参加を拒否している」「移籍先でポジションを得るため」などといった移籍に関わるものが多くあったことだろう。

サッカー界の移籍市場は、1995年のボスマン判決により「労働者の権利や自由」などが尊重され、EU(ヨーロッパ連合)内の移籍が加速度的に大きくなり、現在の大金が飛ぶ市場の姿になった。一方、通常の五輪の23歳以下(東京五輪は1年延期されたことで24歳以下)の参加資格制限が初めて導入されたのは、1992年のバルセロナ五輪である。つまり、五輪の年齢制限はボスマン判決以前のルールであり、現在の移籍市場を踏まえたものではない。

23歳という年齢は、選手として最も大きな移籍を決断するターニングポイントとなる時期だと言える。欧州主要国出身の選手はビッグクラブに行けるか中堅以下のクラブに留まるかどうか。中堅以下の国でプレーしている選手にとっては、主要国リーグに行けるかどうか。もちろん日本人選手にとっても欧州移籍等の決断にも関わる重要な年齢だ。

よって、現在の移籍市場の流れを組んで、改めて五輪の年齢制限をは再検討されるべきではないか。選手を幅広く招集できるように年齢制限を25歳に引き上げたり、あるいはよりサッカー界が育成年代の強化を重視したいのならば21歳以下に引き下げたりする必要があるのではないだろうか?

「欧州勢は五輪を重視しない」ことで興ざめになる五輪サッカー競技を盛り上げるためにも、年齢制限の変更を提案したい。

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