著者:マリオ・カワタ
ワールドカップに向けた代表合宿を前にした2週間前、トルコ系のドイツ代表選手であるメスト・エジルとイルカイ・ギュンドアンが国内で批判を浴びた。ロンドンでトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と面会し、所属チームのユニフォームをプレゼントして写真撮影などに応じたからだ。特にギュンドアンが手渡したマンチェスター・シティのユニフォームには「大きな尊敬を込めて、私の大統領へ」と直筆のメッセージが書き込まれていた。
独裁的な強権で知られるエルドアン大統領は今月下旬に選挙を控えており、エジルとギュンドアンとの面会もそれに向けた宣伝を狙ったものだった。これまでもドイツとたびたび衝突してきた「独裁者」への親近感を示す代表選手の行為に、ドイツのサッカーファンだけでなく政治家も噛みついた。
保守政党キリスト教社会同盟(CSU)は「ドイツ代表のユニフォームを着る選手は我々の国の価値観を尊敬すべきであり、言論と報道の自由を制限する独裁者を宣伝するべきではありません」と声明を出したほか、アンゲラ・メルケル首相の広報も2人の行動が「疑問と誤解を招くものだった」と批判している。
また極右政党ドイツのための選択肢(AfD)のアリス・ワイデル氏もここぞとばかりに「何年間もドイツ国家を歌うことを拒んできたエジルは、インテグレーション(統合)の失敗を表している」と批判を展開、同党からは2人がトルコ代表でプレーすべきとの声も上がった(もちろんFIFAの規定により代表変更は不可能)。
2人により近い存在であるドイツサッカー連盟(DFB)も苦言を呈した。ラインハルト・グリンデル会長は「もちろんDFBは移民としてのバックグラウンドを持つ選手たちの特別な状況をリスペクトしている」としながら「フットボールとDFBは、エルドアン氏が十分にリスペクトしていない価値観に基づいている。我々の選手が彼の宣伝に利用されるのは良くないことだ」とコメント。同じくトルコ系のドイツ代表選手であるエムレ・ジャン(リバプール)がエルドアン大統領からの招待を断っていたことが明らかになり、エジルとギュンドアンの立場はさらに悪くなった。
ワールドカップを直後に控えたタイミングでのスキャンダルに、代表チームを取り巻く雰囲気の悪化を防ぐべく関係者は迅速な対応に追われた。ギュンドアンは「写真撮影によって彼の選挙活動を助けることはもちろん、政治的なメッセージを送るつもりもなかった。ドイツ代表選手として私たちはDFBの価値観に従っており、責任についても認識している」と弁明し、エジルとともにドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイアー大統領を訪問して国への忠誠心をアピールした。
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