
強力な新戦力と覚醒した既存の選手たち
森監督という優秀な指揮官を得て、その戦術をピッチで体現し、チームを新たな高みへと導いているのが、今シーズン新たに水戸の加入した新戦力と、彼らに触発され覚醒した既存の選手たちだ。
今オフの補強戦略は、まさに「的確」の一言に尽きる。クラブは限られた予算の中から、チームのウィークポイントを埋めるだけでなく、明確なプラスアルファをもたらす選手を獲得することに成功した。
FW渡邉新太は、アルビレックス新潟(2018-2020)と大分トリニータ(2021-2024)で豊富な実績を持つ万能型ストライカーで、第19節終了時点で9得点を挙げ、現在J2得点王争いでトップタイだ。しかし彼の真価は、ゴールだけではない。身長171センチと小柄だが、屈強なフィジカルを持ちポストプレーで前線の基点となり、味方が攻め上がる時間を作る。さらに、献身的な前線からのチェイシングで守備の第一線となり、堅守を助けている。得点、アシスト、守備貢献。その全てを高いレベルでこなす渡邉の存在が、チームの総合力を一段も二段も引き上げた。
DF飯田貴敬は、右サイドバックとして開幕戦から全試合フル出場を続けている。茨城県出身で、今回の移籍は地元への凱旋となった。清水エスパルス(2017-2019)を皮切りに4クラブで培った経験はダテではなく、圧倒的な運動量とスプリント能力で右サイドを制圧する。彼の縦への推進力は、相手の守備を混乱させ、攻撃に厚みをもたらす。高精度のクロスボールも大きな武器で、FW陣にとってこれほど頼もしい供給役はいないだろう。地元クラブをJ1へという強い思いが、彼のプレーをさらに熱くさせている。
これら強力な新戦力の加入は、既存の選手たちにも多大な好影響を与えた。特に、今季加入組のFW津久井匠海や、生え抜き組のMF山本隼大、MF長尾優斗にとっては刺激となり、パフォーマンス向上に結びついた。新旧の戦力が互いを高め合う理想的な化学反応。それこそが、今シーズンの水戸の強さの源泉なのだ。

堅実なクラブ運営、J1への夢の共有
今季の躍進は、決して一夜にして成し得たものではない。かつてJ2の中でも跳び抜けて弱小だったサガン鳥栖、ヴァンフォーレ甲府とともに“独立リーグ”と揶揄された水戸が、苦難の時代を乗り越え、地道に着実に築き上げてきた経営基盤とクラブ哲学の結晶だ。
水戸は経営難を経験したことで、身の丈に合った経営を徹底し、スポンサー営業に奔走。少しずつ財政基盤を安定させ、体力をつけていった。同時に育成組織への投資を惜しまず、将来を見据えたクラブ作りを進めてきた。この堅実なクラブ運営が、現在の安定した強化体制の礎となっている。
もう一つの大きな要因が、2024年9月に2025シーズンのJ1クラブライセンスが交付されたことだ。J1昇格には、成績要件だけでなく、スタジアムの収容人数や施設基準などを定めたライセンス基準をクリアする必要がある。
水戸のホームスタジアムであるケーズデンキスタジアム水戸は、長らく基準を満たしていなかったが、クラブと行政、サポーターが一体となり、改修に向けた働きかけを続けた結果、ついに悲願のJ1クラブライセンスが交付された。
J1ライセンスが交付されたことは、選手たちのモチベーションを大いに高めたはずだ。水戸サポーターの声援もかつてないほどの熱を帯びている。クラブ、選手、サポーター全てが「J1」という夢を共有し、ホームで一体となって戦っている。
とは言え、シーズンはまだ道半ばだ。これから迎える真夏の過酷な連戦、そして大宮や千葉といった強敵たちとの熾烈な直接対決が待ち受けている。上位を走るが故のプレッシャーも、これまで以上に大きくなるだろう。
しかし今の水戸には、これらの困難を乗り越えられるだけの力が備わっており、リアリストでありながら情熱を秘めた指揮官もいる。個々の能力と組織力が高いレベルで融合した選手たちがいる。そして、どんな時もチームを信じ、支え続ける温かいサポーターと、安定したクラブの土台がある。
クラブ創設から30年。水戸が悲願であるJ1の舞台に立つ。それはもはや遠い夢物語ではない。J1復帰を目指すクラブの壁として存在感を発揮していたクラブが、今度はJ2の勢力図を塗り替え、新たな歴史を刻もうとしている。リーグ戦7連勝、11戦負けなしと無双状態にある水戸だが、この勢いのままJ1初昇格を成し遂げるのか、彼らの挑戦から目が離せない。
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