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“エスコンフィールドを創った男”が語ったJリーグのここがダメを検証

Jリーグ 写真:Getty Images

初代Jリーグチェアマン(1991-2002)にして、現在は日本トップリーグ連携機構(※)の代表理事兼会長を務める川淵三郎氏の、2023年6月7日のX(当時Twitter)でのコメントが現在再注目されている。

きっかけは川淵氏と、プロ野球・北海道日本ハムファイターズのスポーツ&エンターテイメント常務取締役事業統括本部長で、2023年に竣工した「エスコンフィールドHOKKAIDO」の設計や建設全体に関わった前沢賢氏との対談であった。

川淵氏は当時同氏との対談後「Jリーグを見に行った時何か疎外感を感じだ、こういう雰囲気を作ってはダメだと思ったという話に衝撃を受けた。その鋭いご指摘に共感すると同時にJリーグ全体として分析する必要があると思った(原文ママ)」とツイートしている。この前沢氏の意見が、2年経った今、TikTokのショート動画として拡散され、賛否両論を含んだ様々なコメントが寄せられている。

ここでは、横浜スタジアムやエスコンフィールドの賑わいを演出した前沢氏のJリーグへの“ダメ出し”の真意はどこにあるのか。彼の成功体験からJリーグが学ぶべきことは何かを検証したい。

(※)日本トップリーグ連携機構とは、Jリーグ、WEリーグ、SVリーグ(バレーボール)、Bリーグ(男子バスケットボール)、Wリーグ(女子バスケットボール)、JHL(ハンドボール)、リーグワン(男子ラグビー)、アジアリーグ(男子アイスホッケー)、HJL(フィールドホッケー)、JDリーグ(女子ソフトボール)、Fリーグ(フットサル)、Xリーグ(男子アメリカンフットボール)の計12団体、クラブ総数296団体を擁し、日本の団体球技リーグが集い強化活動の充実及び運営の活性化を図る目的により結成された組織。名誉会長は森喜朗元首相。


大和ハウスプレミストドーム(札幌ドーム) 写真:Getty Images

エスコンフィールドを創った男、前沢氏

地下鉄の最寄り駅から徒歩約10分というアクセスの良さを誇る札幌ドーム(現大和ハウス プレミストドーム)に見切りを付け、計画段階では懐疑的な見方もされていたファイターズの札幌市郊外となる北広島市への本拠地移転を成功に導いた前沢氏。

アクセス面での問題は残るものの、エスコンフィールドの「ボールパーク化(単なる野球場としてではなく、さまざまなアトラクション、食事や座席なども充実)」を実現させ、人口約5万7,000人の北広島市の2022年の地価上昇率は全国トップを記録した。

ファイターズもその盛り上がりに呼応するかのように、昨2024年のペナントレース(プロ野球の公式戦)では新庄剛志監督の下、2年連続最下位から脱し、パ・リーグ2位でクライマックスシリーズに進出した。

また、ファイターズ入りする前の前沢氏は、横浜DeNAベイスターズで取締役事業本部長として、閑古鳥が鳴いていた横浜スタジアムの活性化に携わっていた。その辣腕を発揮した結果、今ではベイスターズは週末のゲームとなれば前売りチケットが完売するほどの人気球団だ。


浦和レッズ サポーター 写真:Getty Images

前沢氏がJリーグに感じた「疎外感」とは

まず、前沢氏が語るところの「疎外感」について考えてみたい。前沢氏が「疎外感」という言葉を使った背景には、彼がエスコンフィールドで目指した誰もが楽しめる空間と、Jリーグのスタジアムの雰囲気にギャップがあったことだと考えられる。

エスコンフィールドは、野球観戦だけでなく、飲食店、キッズランド、商業施設などを備えたボールパークとして設計され、試合がない日でも訪れる価値のある場を提供している。この取り組みは、単なる野球場という概念を超えて、地域社会や多様な客層を引き込むテーマパーク的な発想に基付いている。

一方、Jリーグのスタジアムは、熱心なサポーター文化が強く根付いているものの、いわゆる“一見さん”にとっては入りづらい雰囲気が存在すると感じたのだろうと思われる。

また、「こういう雰囲気を作ってはダメだ」という指摘は、Jリーグが特定の観客層(ゴール裏に陣取る熱狂的なサポーター)に偏りすぎており、幅広い層を取り込むことが出来ていないとも解釈できるのではないか。前沢氏はスポーツビジネスの成功には多様性や包括性が不可欠と考えており、疎外感を生む閉鎖的な環境は長期的な成長を阻害すると見ていると推測する。

Jリーグは1993年の創立以来「地域密着」を掲げ、サポーター文化を育んできた。しかし、前沢氏が感じた「疎外感」は、こうした理想が裏目に出ている可能性を示唆している。

熱心なサポーターが、チャント(応援歌)やコールなどで選手を鼓舞する応援はJリーグの魅力の1つでもあるのだが、初めての観客やライトファンにとっては威圧的で近寄りがたい印象を与えている可能性もある。川淵氏が当時にツイートした「(サポーターに)数が少なくても僕らだけで応援したいのにと言われて愕然とした」との経験談が示すように、Jリーグのサポーター界隈の排他的な雰囲気が垣間見える。


DAZN 写真:Getty Images

サッカーの試合に“プラスアルファ”の付加価値が必要

またJリーグのスタジアムは、試合観戦に特化している一方で、エスコンフィールドのような多目的性やエンターテインメント性が不足している。家族連れやデートでの利用を想定していないため「サッカーを見るだけの施設」となってしまい、結果、客層が限定されてしまうことになる。

サポーター依存の運営に頼るあまり、新規ファンを取り込む努力が後回しになり、さらにJクラブの熱心なサポーターは時として「ニワカはいらない」などという声をSNS上で発信し、これが新規ファン獲得の障害となっている。

それは数字にも現れている。Jリーグの観戦者の平均年齢は、2018年で41.9歳、2019年で42.8歳。少年時代にJリーグが誕生し、贔屓のクラブが生まれ、長年応援し続けているに過ぎないのだ。新規ファン開拓を疎かにした結果、来場者は高齢化し、リピーターしかスタジアムに来ないという現象に陥っている。

また、Jリーグのライバルは、プロ野球や他のスポーツ興行だけではない。有料サブスクに加入すればレベルが高い欧州サッカーを見られる時代にあって、わざわざスタジアムに足を運んで“低レベル”のJリーグを見に行く動機がないのだ。

今やサッカー少年の憧れはJリーガーではなく、欧州のビッグクラブに所属する世界的名選手だ。そんな彼らをスタジアムに呼び込むためには、サッカーの試合に“プラスアルファ”の付加価値がなければならない。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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