
清水「IAIスタジアム日本平」の例
ここで清水エスパルスの例を挙げよう。1998年のJリーグ創立から一貫して日本平運動公園球技場(現IAIスタジアム日本平)をホームスタジアムとしている清水。1991年竣工時は13,000人収容でゴール裏とバックスタンドの一部は芝生席だったものを、1994年、2003年と2度にわたる大規模改修で、収容人数約2万人にまで増やした。しかし、屋根のカバー率は約26%とJ1ライセンス基準にわずかに届いていない。
これにはワケがある。清水サポーターにとっては既に広く知られている話だが、バックスタンド南側の屋根をあえて削ることで、メインスタンドからは富士山と駿河湾を望む美しい風景を望むことが出来るのだ。
アクセスの悪さを指摘する声もあるが、日本平そのものが文部科学大臣が文化財保護法に基づき「名勝」に指定されている。名勝指定されている土地に建つサッカー専用スタジアムスタジアムは、世界的に見ても貴重だろう。シーズンシートを買っているような熱心なサポーターは、試合の度にJR清水駅からバスで約20分揺られる不便を強いられるが、アウェイのサポーターにとっては、スタジアムへの来訪がすでに「観光」となるのだ。
静岡市の晴天率は約69.3%(年間253日/気象庁HP参照)。上記と同じ計算式で求めると、ホームゲームで雨が降る確率は30.7%となる。しかも日本平の芝はJリーグのベストピッチ賞を9度受賞し「日本最高のピッチ」との呼び声も高い。それは取りも直さず、屋根が少なく、十分な日照があることが大きな要因だろう。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは「悪法もまた法なり」と語ったとされるが、Jリーグが作ったスタジアム基準こそ、この言葉にピッタリだ。ソクラテスはその言葉に従って毒を飲み自決したが、Jリーグが各クラブに求めていることは“毒”を自ら食らわせることに近いようにも思えてくる。
2014年、当時のJリーグチェアマン村井満氏が清水の新スタジアム建設を進めるために訪れたのは、清水駅から日本平に向かう途中にあるオーナー企業の鈴与の本社ではなく、静岡市役所の田辺信宏元市長だった。この事実だけでも、各自治体やサッカーに興味のない納税者から“税リーグ”と揶揄される原因を作ってしまっている。
各地でJのサポーターが新スタ建設を夢見て、自治体にプレッシャーを掛けているが、J2水戸ホーリーホックを擁する水戸市の高橋靖市長は「自分の金でやって」と突き放した。確かに創立以来J2に居続け、昇格争いに絡んだこともないクラブのために約200億円といわれる建設費を掛けて新スタジアムを建設することは、為政者として「市民の理解を得られない」と一蹴することは当然だろう。

北九州、金沢、長野でも閑古鳥
現在、岡山ではファジアーノがブームを起こしており、チームもその期待に応える健闘を見せている。しかし、その勢いが消え失せ1シーズンのみで降格となれば、新スタ建設の機運はどうなるだろうか。
勢いに任せてサッカー専用スタジアム「ミクニワールドスタジアム北九州」を建設したにも関わらず、竣工のタイミングでJ3に降格し、2017年の開場以来9シーズン中7シーズンでJ3を戦うギラヴァンツ北九州のホームゲームのスタンドは、既に閑古鳥が鳴いている。
2024年2月開場の「金沢ゴーゴーカレースタジアム」で行われたJ3ツエーゲン金沢の今シーズンホーム開幕戦(対高知ユナイテッド/1-2)も、2015年改修の「長野Uスタジアム」で行われたJ3長野パルセイロの開幕戦(対ザスパ群馬/3-2)も、観客動員は5,000人に届かなかった。
それでも税金から捻出されるスタジアム維持費は年数億円かかる。その分、他に回すべき住民サービスが削られていることを、新スタ推進“信者”たちは肝に銘じておくべきだろう。
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