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欧州ユニファイリーグ構想の奇々怪々

フロレンティーノ・ペレス氏 写真:Getty Images

浮上しては消えを繰り返してきた欧州スーパーリーグ(ESL)構想に新たな動きが見られた。

12月17日に、スペインのマドリードに拠点を置き、レアル・マドリードの会長であるフロレンティーノ・ペレス氏と懇意の間柄とされる同新リーグの推進団体「A22スポーツ・マネジメント」が、欧州サッカー連盟(UEFA)と国際サッカー連盟(FIFA)に対し、新たなコンペティションを主催する権利を承認するよう正式に求めたと発表した。

ユニファイリーグと改称されたこの新リーグ構想の内容や、取り巻く状況について詳しく見ていこう。


レアル・マドリードの旗 写真:Getty Images

ここまでの流れ

A22が2021年に発表し、推し進めようとした欧州スーパーリーグ構想。欧州のトップクラブで構成され、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)に匹敵する、あるいは取って代わることを目的とされてきた、年間のクラブサッカー大会である。

当初、レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、ミラン、アーセナル、チェルシー、インテル、ユベントス、リバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム・ホットスパーの12クラブが支持していたが、ファンやUEFA、FIFA、各国のリーグ、政治家などからも反対の声が上がり、レアル・マドリード以外のクラブが撤退。事実上、このプロジェクトは崩壊したかのように見えた。

しかし、レアルのペレス会長は諦めていなかったようだ。昨2023年、欧州司法裁判所(ECJ)がスーパーリーグ設立を阻止することは欧州連合(EU)の法律に反するとの判決を下したにも関わらず、またプレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガ、セリエAの一流クラブや欧州クラブ協会(ECA)がスーパーリーグ反対を再度表明し、UEFA支持を明言したにも関わらず、形と名称を変えて、再び己の構想を突き出してきたのである。


ハビエル・テバス氏 写真:Getty Images

ユニファイリーグ構想、全試合無料配信

ユニファイリーグと改称された新リーグの構想は、欧州各国のリーグの成績に基づき、男子は総96クラブが「スター」「ゴールド」「ブルー」「ユニオン」の4つに分かれて戦い、女子は総32クラブを2つのリーグ(スター、ゴールド)に分けたリーグ戦の形を取っている。

リーグステージではホーム&アウェイで対戦し、突破チームがノックアウトステージ(決勝トーナメント)に進む。準決勝と決勝は中立地での一発勝負。試合はCL同様、ミッドウィークに開催するとしている。

A22はスーパーリーグをユニファイリーグと改名した理由について「ユニファイ=統一」をその名称に反映させるためだと説明しているが、一見、スーパーリーグ構想の看板を掛け替えただけに見える。

さらに今回の動きはECJが下した判決を受けたもので、A22はUEFAとFIFAに「国境を越えた新しいヨーロッパクラブサッカー大会」の公式認定を申請し、ECJの判決が「資格が包括的で実力主義的であり、全体的な試合カレンダーに準拠する大会であれば正式に設立できる」と主張している。

驚くべきは、プラットフォーム「Unify(ユニファイ)」を通じて、リーグ全試合を無料配信するという点だ。A22は、若いファン層の関心が薄れていることを懸念していると主張し、新しいプラットフォームを通じた革新的なストリーミングサービスにより、新たなファン層を取り込む目論見だという。プレミアムプランでは、広告なしのサービスも提供される予定だ。


ラ・リーガ 写真:Getty Images

欧州各国リーグは懐疑的

しかし、欧州各国リーグはユニファイリーグに対して懐疑的で、レアル以外の有力クラブはこの取り組みを公には支持していない。A22は、有力クラブや関係者との対話を経て提案を作成したと言い張っているが、具体的な詳細を示していない。かつて、スーパーリーグ構想を支持したバルセロナやアトレティコ・マドリードも沈黙していることで、その疑念はさらに深まっている。

レアルのペレス会長と犬猿の仲で知られるハビエル・テバス会長がトップに君臨するラ・リーガは、このプロジェクトは欧州サッカーの基盤を危うくし、各国リーグの経済バランスを崩壊させる恐れがあるとし、「このプロジェクトはクラブ、連盟、選手、ファン、政府、欧州機関からの支持が不足している」と手厳しく批判。

また、A22のリリースを引用リポストする形で、「A22の連中はまた新しいアイデアを持ち出してきた。まるでチュロスのように次々とフォーマットを生み出しながら、経済的・競技的影響を分析もせずに進めている。彼らの提案するテレビモデルはビッグクラブだけを優遇し、国内リーグとそのクラブの経済的安定を危険にさらすものだ」とXにポストした。

現状ユニファイリーグは、最初のスーパーリーグ構想発表時に猛反発を受けたことを教訓とし、まずは理解を得ようという動きを見せてはいる。しかし特にプレミアリーグのクラブは現在の立場を守りたい傾向が顕著で、UEFAやFIFAから分離した形でのリーグには反対する姿勢を明確にし、参加もしないことを明言。さらに、EUに加盟していない英国の法律により、イギリスのクラブがユニファイリーグへの参加が禁止される可能性もあるだろう。

「無料配信」を謳ったユニファイリーグを取り巻く財政状況は不透明で、その資金源についての疑義も生じている。欧州サッカーはスポンサー収入や入場料収入よりも、放映権収入で成り立っていることは、もはや誰もが知る常識だ。また、UEFAがCLに「リーグフェーズ方式」という新たな試みを加えた形でローンチし、サウジアラビアからの投資を受け、来夏、米国で開催されるFIFAクラブワールドカップと共に起こる欧州サッカー内の権力構造の変動の真っ只中で提案されている。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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