Jリーグ

“魔物”が棲んでいたJ1昇格プレーオフ準決勝。長崎と山形はなぜ敗れたのか

写真:Getty Images

12月1日に開催された2024シーズンのJ1昇格プレーオフ準決勝。J2リーグ3位のV・ファーレン長崎が同6位のベガルタ仙台戦(ピーススタジアム長崎)で1-4で敗れた。また、同4位のモンテディオ山形も同5位のファジアーノ岡山戦(NDソフトスタジアム山形)で0-3で完敗。いずれも下剋上を許し、J1昇格を逃した。

共にリーグ戦上位の長崎と山形はなぜ敗れたのか。ここまでの背景や来2025シーズンに向けての状況から、12月7日に行われるJ1昇格プレーオフ決勝についてまで、詳しく見ていこう。


V・ファーレン長崎 写真:Getty Images

プレーオフの大本命だった長崎

長崎は、2023年12月末に2022シーズンから指揮を執るファビオ・カリーレ監督が突然、レアンドロコーチ、デニスコーチ、セザールコーチらスタッフを引き連れ、ブラジルのサントスFCと契約。二重契約にあたるとして、クラブがFIFAに提訴するに至るというゴタゴタ劇があったにも関わらず、ヘッドコーチに内定していた下平隆宏氏が監督に“昇格”する形で2024シーズンに臨んだ。

2019シーズンには横浜FCをJ1昇格に導いた実績もある下平監督は、フアンマ・デルガド、エジガル・ジュニオ、マルコス・ギリェルメといった強力なブラジル人FWの得点力を最大限に生かした攻撃的スタイルで臨み、J2リーグの総得点はぶっちぎりの「74」。総失点「39」もリーグ戦4位の数字で、得失点差ではJ2最大の「35」だ。

第3節から22戦負けなしで、リーグ戦での連敗は1度だけという手堅さも持ち合わせる一方で、夏場に7戦未勝利に陥るものの、思い切った若手の登用などで悪い流れを断ち切り、結果的に2位で自動昇格した横浜FCとの勝ち点差「1」にまで迫ったことで、プレーオフの大本命と目されていた。

しかし、12月1日のJ1昇格プレーオフ準決勝では、リーグ戦最終節(10月27日)の愛媛FC戦(ニンジニアスタジアム)での勝利でプレーオフ圏内に滑り込んだ仙台の森山佳郎監督に研究し尽くされていた。リーグ戦で1勝1引き分けと勝ち越していることも自信に繋がっていたこともあるだろう。

圧倒的にボールを支配しながらも、しっかりと構え、ショートカウンターを狙う仙台。前半31分、長崎DFヴァウドがPKを献上。追う立場に立たされると、徐々にその術中にハマり、後半にはさらに失点を重ねていく。後半31分、MFマテウス・ジェズスの得点で反撃の狼煙を上げるが、時すでに遅し。その後、ダメ押しの4失点目を喫し、収容人数とほぼ同数の2万0001人(うちベガルタ仙台サポーターは約2,000人)の前で、“プレーオフの魔物”を目の当たりにする結果となった。


マテウス・ジェズス 写真:Getty Images

長崎が来季J1自動昇格を目指すには

長崎は今年、オーナー企業であるジャパネットホールディングスが総工費約1000億円をかけ、スタジアムに加え、ホテルやアリーナ、商業施設などを組み込んだ一大複合施設プロジェクト「長崎スタジアムシティ(2024年10月オープン)」を完成させ、勝負のシーズンとして臨んだ。

J1昇格という果実を得られなかったことで、来2025シーズン再びJ2を戦うことになったが、今季披露した圧倒的な攻撃力には、他クラブも放っておくわけもなく“草刈り場”となってしまいかねない。

MFマテウス・ジェズス(今季リーグ戦18点)、FWエジガル・ジュニオ(同15点)、MFマルコス・ギリェルメ(同12点)、FWフアンマ・デルガド(同10点)の強力外国人アタッカーには熱視線が送られており、ギリェルメ以外はJ1での経験もあることから、触手が伸びてくることは必至だ。ジェズスは長崎との契約を1年残すものの、契約解除金(移籍金)を支払ってでも、その決定力を欲しがるクラブが現れるだろう。

想定より1週早くストーブリーグに突入してしまった長崎が、来季J1自動昇格を目指すためには、上記助っ人4選手の残留が必須であり、さらに、GK、DF陣も補強ポイントとなる。J1クラブのオファーに対し、“ジャパネット・マネー”でどれだけ相対することができるのかが、今オフの見どころの1つだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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