Jリーグ 福島ユナイテッドFC

J2昇格プレーオフを目指す福島ユナイテッドの希望と課題

福島第一原子力発電所 写真:Getty Images

東日本大震災からの道のり

福島の場合、今季開幕前にオーナーの変更があった。東洋ワークグループから、投資会社「WMパートナーズ」の共同創業者の寺部達朗氏が過半数の株式を譲渡され、自ら代表取締役会長の差に就いた。

過去、東北リーグ時代には運営会社が破産し、新たな運営会社を設立したものの、その翌月に東日本大震災(2011年3月11日)が発生。放射能への不安から多くの選手が退団するなど、2014シーズンのJ3参戦まで険しい道のりを辿ってきた福島。

しかしその逆境をバネに、クラブは“新事業”に乗り出す。それが2014年に立ち上げられた「福島ユナイテッドFC農業部」だ。

原発事故に伴う風評被害により、福島県産の農作物生産者がダメージを受ける中、あえて選手自らが野菜や果物を育て、アウェイ戦では販売ブースを設けるなど地道な努力が実を結び、現在ではクラブの重要な収入源の1つにまで成長しただけではなく、復興に向けての一翼を担った。

地元にとって「福島ユナイテッドFC」とは、単なる1サッカークラブではなく、地域に根付くコミュニティーとなっているのだ。


とうほう・みんなのスタジアム 写真:Getty Images

チームの成長スピードに追いつかない運営

だからといって、課題がないわけではない。2023シーズンのホームゲーム平均観客動員数は1229人にとどまり、J全60クラブ最低を記録してしまった。

本拠地のとうほう・みんなのスタジアムは、福島市の外れにあり、しかもJR福島駅からの公共交通機関は路線バスのみ。公式サイト上では、直通乗合タクシーの利用を勧めている有り様だ(しかも、片道4000円!)。福島競馬開催時には臨時バスによるピストン輸送が行われているのとはあまりにも対照的だ。

いくら車社会の地方都市とはいえ、県庁所在地をホームとするクラブとして遠征してくるアウェイクラブのサポーターをガッカリさせるだけではなく、地元のサポーターも不便を感じているに違いない。この事実だけでも、フロントが集客に努めているとは思えないのだ。福島には地元バス会社がスポンサーに付いているのだが、宣伝看板を出す前にお願いするべきことがあるだろう。

今年5月、福島駅西口再開発に伴い新スタジアム建設の陳情があったが、自治体は建設費や整備費の高騰を理由に消極的な姿勢だ。

また、現在、福島にはJ2ライセンス取得に必須となるユースチームが存在しているが、その下部にあたるジュニアユースチームがない状態だ。そのユースチームにしても、J3ライセンスを取得するために2021年、急きょ結成されたものだ。


チーム強化や農業部の頑張りは評価できるが、試合運営のノウハウや選手育成については二の次といった印象を受ける福島。仮にプレーオフに進出し、そこを勝ち抜いてJ2に昇格できたとしても、特にスタジアムへのアクセス面で大混乱になることは必至だ。現状、チームの成長スピードにフロントや運営が追い付いていないのだ。

同県のいわきFCに先にJ2に昇格され、集客力でも後塵を拝している福島。もちろん今シーズンはJ2昇格の大チャンスなのだが、もし昇格できずとも、もっと足元を固め、観客へのホスピタリティーを整備した後に、再チャレンジを図る必要があるだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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