EURO イングランド代表

ユーロ2024決勝に臨んだイングランドの秘策と打ち破ったスペインの違い

ラミン・ヤマル 写真:Getty Images

警戒していたヤマルに破られると、攻撃に転じる

イングランドの戦略は後半に入ると、ほころびはじめる。47分にスペインは、右サイドでボールを受けたヤマルがカットインし、ニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)の先制点をアシストした。やはり、警戒していたヤマルに破られてしまった。

イングランドは追い上げをはかるが、逆にスペインの術中にハマっていく感があった。そこでサウスゲート監督は61分にワントップのケインに代えてオリー・ワトキンス(アストン・ビラ)を投入。そして70分には、メイヌーに代えてコール・パーマー(チェルシー)を投入。すると3分後の73分にベリンガムのパスからパーマーが同点弾を決める。

見事なまでのベンチワークだが、そこにもサウスゲート監督の緻密な計算があった。システムは【4-4-1-1】で同じながらポジションの変更を行ったのだ。ベリンガムをセントラルMFにして、フォーデンを左MFにすると、パーマーをトップ下に入れた。投入したばかりのエネルギーのある選手を前線に近いところに置き、よりゴールに直結するプレーにからませることを意図したのだ。


ガレス・サウスゲート監督 写真:Getty Images

微妙な駆け引きも最後は力負け

イングランドは同点弾の勢いのまま畳み掛けずに、やや自陣に引いて振り出しに戻したことでよしとする感があった。それだけ、スペインの攻撃は脅威的だったのと、延長戦まで視野に入れていたこともあるだろう。

試合終盤は、どちらかが1点を奪えば、それが決勝弾になりそうな状況。最後は両チームが得点を狙いに行ったが、打ち合ったらスペインが一枚も二枚も上手だった。86分に流れるようなスペインの攻撃から、こちらも途中出場のFWミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)が追加点を挙げる。

サウスゲート監督は89分にMFフォーデンに代えてFWイバン・トニー(ブレントフォード)を投入し攻撃の圧力を高めるも、挽回する時間はもうほとんど残されていなかった。

試合終了時には、ボールポゼッションがスペインの63%に対してイングランドが37%、攻撃回数は60回に対して31回、シュート数は14本に対して9本と差がついた。自分たちのプレーをすれば勝てると踏んだスペインに対して、リアクションサッカーに活路を見出そうとしたイングランド。両者の戦略が実力差を物語っていた。


ウィリアム皇太子 写真:Getty Images

欧州制覇は母国イングランドの至上命題

表彰式では、英国王室ウィリアム皇太子がイングランド・イレブンの労をねぎらった。サウスゲート監督は涙をぐっとこらえ、最後まで英国紳士を貫いた。勝利の女神は微笑まなかったが、敗れたイングランドは、チームが一丸となりこれ以上ないパフォーマンスを発揮した。

欧州選手権で2大会連続の準優勝は立派な成績だ。それで納得できないのは、イングランドがフットボールの母国であるがためだろう。また4年後に、悲願の初優勝を目指すことになる。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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