ピンチが大きな転機に
だが結果的に、このピンチが転機となった。クラブスタッフや選手が一丸となって地域の支援活動を行ったことで、市民との距離がグッと縮まった。加えて2011年に水戸市市長となった、高橋靖氏がホーリーホックへの支援を決定。
この年に監督に就任した元日本代表の柱谷哲二氏、6月に入団が決まった元日本代表の鈴木隆行の両者が注目を集めたこともあり、5年ぶりにユニフォームスポンサーが全て埋まった。
つまり震災によってスポンサーが離れるどころか、結果的に増えることになったのだ。水戸ホーリーホックはこの年から3期連続で黒字を達成。ホームタウン活動を大幅に増やしたクラブの努力も相まって、市民クラブのあるべき姿に変貌を遂げた。
成績こそなかなか向上しなかったものの平均観客動員数は増加を続け、2013年に4,000人を、2016年に5,000人を、コロナ禍前の2019年には6,000人を突破した。その2019年にはついに成績も伴った。最終的にプレーオフ進出は逃したものの、総得点1差の7位となり、その後もJ1参入プレーオフ争いに加わり続けている。
少しずつ進むチームの強化
ホーリーホックは現在とて、潤沢な資金を持つクラブではない。いまだにJ2リーグの平均を下回っている。そのため活躍した選手が長年所属するケースは少ないが、多くの若手選手を花開かせてきた。
田中マルクス闘莉王、塩谷司、前田大然といった新旧の日本代表、元韓国代表のパク・チュホなどの活躍で「育成の水戸」というイメージが定着。出場機会に飢えた有望な若手が集まるようになったことで、好循環が生まれている。
また、ホーリーホックといえば本間幸司のことを語らねばならない。JFLに所属していた1999年に浦和レッズから加わると、44歳となった現在までの間に575試合に出場。J2リーグ最多出場記録を保持している“ミスター水戸ホーリーホック”である。試合に飢えた若手と、本間をはじめとする精神的支柱であるベテランが合わさり、入れ替わりは多いもののスカッドは少しずつ強化されてきた。
J1鹿島に歴史的勝利
この地道な強化は、2022年ある1つの結果を生んだ。Jリーグプレシーズンマッチとして16回目の開催となった「いばらきサッカーフェスティバル」(2月13日)で、J1の強豪である鹿島アントラーズを1-0で破ったのだ。過去の戦績は水戸の1分14敗であり、歴史的な勝利となった。
2022リーグ戦に向けては唐山翔自や椿直起などの期待の若手、本間幸司や金久保順などのベテラン、さらに高井和馬や梅田魁人などの実績のある中堅選手を加え、上を目指せるだけの戦力を整えている。2022年内には新スタジアム構想の基本計画やコンセプトを公表予定で、2月22日には水戸駅北口のマイムビルに初の常設オフィシャルグッズショップをオープンした。
ハード面とソフト面の両面で力を付けてきた水戸ホーリーホック。FC水戸の誕生から30年目の節目を迎える来シーズンを、鹿島と同リーグで戦うために。昇格を達成したいシーズンが始まった。
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