今後生じるであろう課題
無失点試合が決して多くなく、高さを含めた守備面の強度にやや欠けるが、どこが相手であっても自信を持ってプレーできており選手達も手応えを感じているはずだ。ただ、現在の完成度はある程度メンバーを固定して戦えているからこそであり、主力に怪我人が複数出るなど入れ替えざるを得なくなった場合に歯車が狂う可能性は否めない。
実際に、第24節の福島ユナイテッド戦では不動のスタメンだった前田椋介を出場停止で欠いた影響があったか、1-2で敗れた。来季以降の課題としては、Jリーグ1年目の今季は追う立場だがこの躍進によって来季は追われる立場となる。他チームから詳しく分析されることは間違いなく、戦術の幅を広げなければ苦戦する試合が増加する可能性は高い。
そして最大の懸念材料は、資金力の大きくないクラブが躍進を見せた場合にほぼ必ず起こること。選手の引き抜きである。今季の宮崎と似た例でいうと、2020シーズン、J2で5位に入ったギラヴァンツ北九州が挙げられる。序盤戦は首位に立つなど見事な成績を残したのだが、主力選手へのオファーが相次ぎ多くがチームを離れた。北九州の場合は期限付き移籍で加入していた選手が多かったこともあるが、今シーズンは一転残留争いを余儀なくされている。
宮崎の場合は期限付き移籍で加入している選手はいないが、中盤の要の千布一輝やJ3屈指のキープ力を持つ梅田魁人、チーム得点王の藤岡浩介、総合力の高いSBの青山生など、他のクラブに狙われるであろう選手は少なくない。また、コロナ禍の影響があるとはいえ、現時点で2位という見事な順位の割には観客数が伸びていないことも気になるところだ。
2021シーズンがクラブにもたらすもの
それでもクラブにとって、2021シーズンが自信となりJリーグで戦うベースとなることは確かだ。
宮崎県内の複数の陸上競技場を使用し、ホームの強みが出しにくかった昨シーズンまでの環境から一変。サッカー専用かつクラブの大きなロゴが入った、ユニリーバスタジアム新富という確固たる「ホーム」を得たことは何事にも代えがたい。
そのユニリーバスタジアム新富にはユニフォームを着て応援するサポーターが増え、ゴール裏の芝生席には宮崎の温暖な気候にピッタリな、牧歌的な雰囲気が溢れている。都会の大規模なスタジアムとは異なる、プロビンチャ(地方都市のクラブ)ならではのサッカーへの愛がそこには存在している。
スペインの田舎町のクラブに過ぎなかったビジャレアルが、フェルナンド・ロッチ会長を得てラ・リーガ1部、どころかEL(ヨーロッパリーグ)で優勝するまでになったように。スタジアムの建設費を拠出するほどのエモテントという親会社を得た宮崎が、2021シーズンの経験をベースにいつの日か日本を代表するプロビンチャになっても何ら不思議ではない。
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