ペニスコラを指揮するファンルー監督。
9本。バルセロナのシュートが、ペニスコラのバーやポストを叩いた数だ。ホームチームを応援する観衆が9割を占めるスタンドが前半思わず声を挙げたのは1度。後半にゴールかと思って、会場が唸ったが8回だった。この数が示すようにバルセロナは猛攻を仕掛けたが、本拠地で今シーズン初めての黒星を喫した。
ペニスコラは手にする資源を全て出し尽くした。バルセロナに大半の時間の主導権を握られたが、自分たちがボールを奪った時は、より直線的にゴールを目指し、シュートまで持ち込む。数的優位な場面ならば一気呵成にゴールを目指した。最短ルートが封じられているのであれば、後方から攻撃を組み立てる。パラレラやワンツーからファー詰めなど3人以上が有機的に関わり、ゴールの機会を模索した。相手ゴールに迫る回数は少なかったが、各選手が持つ個性を引き出した攻撃は効果的だ。結果、3度の決定機の内、2回を仕留めてみせた。
攻撃は効果的だったが、2ゴールだけ。より称えられるべきは、失点を1に抑えたディフェンスだった。彼らは、勇敢だった。ハイプレスで相手に考える間を与えず、ボールの出口を閉めようとし、前線へのパスを分断していた。とはいえ、密封できるわけではない。くさびのパスが何本か、ブラジル人ピヴォのフェラオ、エスケルジーニャにボールが納まることがあった。すると前線にいた選手が素早く戻り、味方フィクソを背にボールをキープする相手ピヴォをサンドする。ファンルー監督は何度もチームの最後尾であるフィクソと最前線のピヴォの間が間延びしないよう口泡を飛ばしていた。バルセロナにはどのチームにとっても脅威の2人のピヴォがいる。昨シーズンの得点王フェラオ、そしてベテランのロシア代表エスケルジーニャだ。2人は今シーズンの公式戦ですでに合わせて30ゴールを決めていた。怖いのは個々の得点力だけではない。彼らの懐にボールが収まれば、そのポストプレーを目当てに多くの選手が走り込んでくる。例えばブラジル代表アタッカー、ディエゴはフェラオとのコンビを得意としており、リターンパスを受けて何度も強烈なシュートを叩き込んでいる。ペニスコラがコンパクトにするのは、得点力の高いピヴォを挟み打ちにするのもそうだが、走り込んでくるスペースを消すためでもあった。ペニスコラは徹底していた。
ペニスコラのファンルー監督は、もうひとつ試合を通して、貫いていたことがあった。フェラオのマンマークだ。
セレソンのピヴォがコートにいる時、彼の背後にはいつもチャビ・コルスがいた。バルセロナBのキャプテンとして、今年の神戸フットサルフェスタにも出場していた9月に20歳になったばかりのフィクソは、フェラオの反転シュートをことごとく阻止した。バルセロナのトップチームのトレーニングに参加することもあり、同僚であったブラジル人ピヴォのプレー、癖を熟知しているのだろう。身体を密着されば、簡単に身体を入れ替われてしまう。腕を伸ばし、マークするブラジル人ピヴォと距離をとって、反転されても、必ずシュートブロックできるポジションをとっていた。確かにポストやゴレイロのファインセーブに助けられた場面もあったが、昨季の得点王がゴールできなかったのは、チャビ・コルスがマークしていたからだ。
バルセロナのブラジル代表アタッカー、ディエゴをマークしていたのは、フアン・エミリオだ。彼もチャビ・コルス同様に2016年夏までバルセロナBでプレーしていた。ディエゴがサイドで持てば、必ずフアン・エミリオが対処した。彼はアラ–ピヴォのアタッカーだが、運動量が豊富でスピードがある。またチャビ・コルス同様に、同じクラブにいたのでディエゴのプレーを知っている。スペインで最も1対1から違うをつくれるアタッカーの緩急のあるドリブルにはフアン・エミリオが大抵対応していた。それもファンルーの意図だった。
ペニスコラはバルセロナの攻撃の軸となる選手に策を練り、徹底し、実行した。ポストやバーに阻まれたバルセロナのシュートは9本。だからといって、ペニスコラが相手の不運に頼り切ってつかんだ勝利ではない。自分たちが練りだした勝利への最善策を忠実に実行したからこそ、9つもの幸運をつかんだのだ。
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