
パルマ所属の日本代表GK鈴木彩艶は先日、イングランド戦後にプレミアリーグ移籍を望んでいることを明かしている。浦和レッズ在籍時にマンチェスター・ユナイテッドからのオファーを却下したことでも話題を呼んでいるが、今となってはその判断こそが、彼を日本代表の「不動の守護神」へと押し上げた最大の分岐点だったと言える。英メディア『スカイ』のインタビューで「プレミアリーグでプレーすることは夢のひとつ。この国でプレーしたい」と答えた言葉に、ただの夢想ではなく確固たる根拠がある。
海外メディア『Jリーグインサイダー』は、鈴木の歩みを「日本人選手の海外移籍における最良の手本のひとつ」と断言した。2023年、彼の元に届いた2つのオファー。ベルギー1部シント=トロイデンVV(STVV)と、MF香川真司(現セレッソ大阪)の古巣マンチェスター・ユナイテッド。普通の選手なら後者を選ぶ。名声、資金力、ブランド。理由はいくらでも並べられる。
だが鈴木は違った。
浦和時代、GK西川周作の壁に阻まれ出場機会を得られなかった苦い記憶が、彼の選択基準を研ぎ澄ませていた。「ユナイテッドでも同じことが繰り返される」その冷静な自己分析が、STVVという一見地味な選択を導いた。ベルギーで正GKの座を掴み、プレーの質を着実に引き上げた鈴木は、パルマへ移籍すると、セリエAの舞台でも正守護神として活躍している。
『スカイ』など複数メディアは、アーセナル、チェルシー、ウェストハムからの関心を伝えているが、移籍金は最低でも2500万ユーロ(約45億7500万円)。ユナイテッドからのオファーを蹴った選手に、今度は複数のプレミアクラブが高額を積んで争奪戦を繰り広げる構図。これほど痛快な「答え合わせ」もそうはない。
一方で、この成功例が際立つのは、失敗例があまりに多いからだ。
『Jリーグインサイダー』が指摘した言葉は重い。「中身のない代理人の約束を信じ、明確なキャリア設計もなく、出場機会の保証もないまま欧州へ渡り、マーケティング要員として扱われる日本人選手が多い」。これは批判ではなく、現実の描写である。欧州の中小クラブにとって、日本人選手の獲得はスポンサー収入とSNSのフォロワー増加を意味する。実力で評価されているのか、商品として扱われているのか、その境界線を見極めずに渡欧した選手が、わずか2,3年でJリーグへ復帰する事例は枚挙にいとまがない。
鈴木が特別だったのは、才能ではなく「問い」を持っていたことだ。「自分はそのクラブで何試合に出られるか」。この一点を軸に据えた選択が、すべてを変えた。
もちろん、今回のプレミア移籍が順風満帆に進むとは限らない。移籍金45億円超というハードルがクラブ間交渉を長期化させるリスクも十分にある。浦和、STVV、パルマと着実にステップを踏んできた鈴木の選択は、現時点で正しい。イングランド戦での活躍もあり、プレミアリーグ方面から正式オファーが届く可能性は十分考えられるが、選手本人は今度も出場機会について冷静に分析するはずだ。
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