
スタジアムの立地と価格戦略の転換
ベススタ(東平尾公園博多の森球技場)は1995年のユニバーシアード開催に合わせて建設された球技場で、屋根付きスタンドを備えた見やすいスタジアムだ。日本代表戦や2019年のラグビーW杯でも使用された実績を持ち、観戦環境そのものの評価は高い。
一方で、課題はアクセス面にある。最寄りの福岡市地下鉄空港線「福岡空港駅」から徒歩20〜30分、緩やかな上り坂が続く立地は、初来場者にとって心理的ハードルになりやすい。シャトルバスや駐車場の利便性も十分とはいえず、こうした小さな不便の積み重ねが新規観客の足を遠ざけている可能性がある。
もっとも、ホークスの本拠地・みずほPayPayドーム福岡も駅から徒歩約15分で、決して抜群の立地とは言い難い。それでも動員に大きな差が生まれているのは、立地条件以外の要素が作用しているからだろう。
アビスパはかつて無料招待券による集客に依存していたが、2019年を境に「動員数」から「客単価」重視へと方針転換。2024シーズンには入場料収入約6億6,900万円、客単価3,788円まで改善し、黒字化を達成した。動員と収益のバランスをどう取るかという課題は残るが、単なるアクセス問題だけでは説明できない現実がある。
タイトル後も伸び悩むブランド力
それでもアビスパの認知はまだ途上だ。2023年のYBCルヴァンカップで初タイトルを手にしたが、集客につながるブランド力では不足している。テレビ露出の増加が求められるが、現状では限定的だ。
例えば、マーケティング戦略として、九州地区同士のダービーマッチの活用や日本代表級選手や大物外国籍選手の獲得が有効にも思えるが、資金面で難しい。公式YouTubeなどでのデジタル発信力も弱く、2025年5月の週間視聴回数ランキングでJ1最下位。残酷なまでに市民からの関心が低いことを示している。
アビスパは地域密着を理念としているが、2013年の経営危機と、2014年のシステムソフト(アパマンショップホールディングス傘下)による実質的買収を経て、川森敬史氏が社長に就任したが、スポンサー集めやメディア露出で苦戦している側面は否めない。
不祥事と体制刷新が与える影響
アビスパは2026シーズン開幕前、パワーハラスメント問題を受けて金明輝前監督が2025年末に退任。2026年1月14日にはコンプライアンス違反の事実確認と、会長だった川森敬史氏や立石敬之副社長らの処分、再発防止策を公表した。新たに西野努氏を代表取締役社長に迎え体制刷新を図るが、不祥事がスポンサーやファン心理に影響を与える可能性は否定できない。
2024シーズンまでスポンサーを務めたもりやま行政書士事務所は、C大阪戦後に観客数へ言及し、X上で「これは恥ずかしい」と投稿。元スポンサーの立場から動員低迷を指摘する発信は、クラブの厳しい現状を象徴する出来事となった。
ピッチ上では、塚原真也暫定監督の下、ベテランを軸に大卒やアカデミー出身の若手が脇を固める守備重視のスタイルを継続。3節終了時点で1得点にとどまっており、得点力不足が試合のエンターテインメント性を抑え、ライト層の取り込みに影響している可能性もある。
クラブ以前に、サッカーを伝える
アビスパの観客動員低迷は、競合スポーツ環境、スタジアムのアクセス課題、ブランド力不足、監督の不祥事など、複合的な要因が絡み合った結果といえる。若者が多く、人口増加を続ける福岡市という恵まれた都市特性を生かし、勝利の積み重ねと独自のサポーター文化の醸成が重要になる。日本を代表するスマートシティの一つでもあることから、デジタルマーケティングの強化も有効な選択肢だろう。
地元4大学との産学連携プロジェクト「ベススタ埋めたいPJ」の継続、ファミリーデーやレディースデーの充実、シャトルバスの増便や無料化といったアクセス改善も検討に値する。さらに、平日開催で多くのクラブが導入している「後半半額チケット」のような施策も、来場のハードルを下げる一手になり得る。
小さな障壁を一つずつ取り除き、「まずは生で試合を見てもらう」機会を増やすことが重要ではないだろうか。その積み重ねが、着実な動員増につながるはずだ。そして最終的には、アビスパというクラブ以前に、サッカーそのものの魅力を新規層へどう伝えるかが問われている。
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