Jリーグ 横浜F・マリノス

日産スタジアム、サッカーと音楽ライブファン対立の背景と未来は

日産スタジアム 写真提供: Gettyimages

管理者による対策とファンの視点の転換が必要

まず、芝生システム自体の進歩は、耐久性の向上に繋がるだろう。さらなる強化芝生や、迅速に交換可能なモジュール式芝生など、最先端の芝生技術への投資は、音楽ライブによる芝生の損傷を軽減する可能性を秘めている。

また、重要な芝生移行期間を避けて音楽ライブのスケジュールを組んだり、イベント間の回復期間を長くしたりすることが考えられる。しかし、音楽ライブが夏場を中心に行われていることを考慮すれば、あまり現実的ではない。Jリーグは2026/27シーズンから秋春制に移行するが、開幕は8月下旬という見通しがなされている。つまり横浜FMは、開幕戦からいきなりボロボロの芝生の上で試合をせざるを得ない状況が生まれる可能性すらあるのだ。

それならば、芝生の保護対策を強化するしかない。テラプラスでは、使用頻度が高い場合や悪天候が重なった際には効果が限定的なものとなる。より堅牢な保護システムを開発するか、音楽ライブの観客席に使用するピッチエリアを制限する(例えば、ゴールエリアやセンターサークルを避ける)ことで、芝生のダメージを最小限に抑えることができるだろう。

サッカーファンと音楽ファンの間で対話の場を作ることで、互いの敵意を軽減できる可能性もある。スタジアム管理者が、多目的会場の維持管理の難しさについて双方に発信し、相互尊重を試みる努力も必要だ。例えば前述の『芝生観察日記』から得た知見を共有することで、音楽ファンはライブがいかに芝生に悪影響かを理解し、協力を促進できる可能性がある。

また、これは極論だが、フットボールの聖地であるイギリス、ロンドンのウェンブリー・スタジアムですら、毎年のように複数の音楽ライブが開催されている。そしてウェンブリーでも芝生の保護のためにテラプラスが使用されている。サッカーファンも近視眼的にではなく、スタジアムの稼働率や収益性を考えた広い心を持つべきなのではないだろうか。


横浜F・マリノスのゴール裏 写真:Getty Images

双方が楽しめるバランスの取れたアプローチへ

日産スタジアムは、サッカースタジアムにおける音楽ライブ開催の先陣を切ったことでハレーションを起こした。しかし、現在これは一般的となり、味の素スタジアムでは今夏だけでも、BOYNEXTDOOR(ボーイネクストドア/6月28日)、ENHYPEN(エンハイプン/7月5日)のライブが開催される予定だ。

さらに建設以来、音楽ライブどころかサッカー以外の球技も“排除”してきた埼玉スタジアム2002も、浦和レッズから埼玉県公園緑地協会に指定管理者が変わったことで、音楽ライブを誘致するのではないかという噂が立っている。もしそれが本当ならサポーターから反感を買うことは必至だが、「収益性」や「公共性」を持ち出されれば、浦和側からは反論する言葉もないだろう。それが時代の流れというものだ。

高度な芝生技術への投資、芝生保護対策の強化などを通じて問題を軽減し、ファン同士の敵意を軽減する努力を続けている日産スタジアム。スタッフの涙ぐましい苦労は徐々に実を結び、この対立は徐々にではあるが少なくなりつつある。日産スタジアムがこれまで注目度の高い国際イベントを成功させてきた実績は、サッカーファンと音楽ファンの両方が衝突することなく楽しめるバランスの取れたアプローチが可能であることを示唆しているとは言えないだろうか。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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