
今2025シーズンのJリーグで、3バック(【3-4-3】もしくは【3-5-2】)を採用するチームが増加している。この「3バックブーム」は、単なる一過性のブームなのか、戦術の進化を反映した現象なのか、まだその答えは出ていない。
現在のJ1ではサンフレッチェ広島や町田ゼルビアが、J2ではロアッソ熊本など多くのクラブが3バックを基盤とした戦術を採用。また、柏レイソルも、今季から就任したリカルド・ロドリゲス監督が3バックで強固な守備と流動的な攻撃を披露し、上位戦線を賑わせている。
なぜ今、3バックが再び脚光を浴びているのか。その背景には、国内外のサッカートレンド、選手の特性、対戦相手への対策など、さまざまな要因が絡み合っている。ここでは、Jリーグの3バックブームの要因、採用チームの事例、戦術的メリットと課題、そして今後の展望について掘り下げてみたい。

世界で3バック再評価の流れ
3バックシステムの再評価は、Jリーグだけの現象ではない。欧州サッカー界でも3バックが再び注目を集めている。
2010年代後半から、バルセロナやバイエルン・ミュンヘンの監督を歴任し現在マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督や、同じく多くのビッグクラブを率いイングランド代表監督を務めるトーマス・トゥヘル監督、セリエA優勝に導いたナポリのアントニオ・コンテ監督といった名将たちが3バックを採用したこともあった。特に、ビルドアップの柔軟性や守備の安定性を高める戦術として、3バックは現代サッカーのトレンドに適合しているという見方だ。
日本代表の歴史を紐解くと、3バックを採用した例としては、2002年のFIFAワールドカップ(W杯)日韓大会に臨んだフィリップ・トルシエ監督の代名詞的戦術「フラット3」が有名だ。
そして時は流れ、現在日本代表を率いる森保一監督は、2018年のチーム立ち上げ当初は4バックを採り入れた時期もあったが、現在では3バックをベースに相手に応じて4バックと併用している。
これがJクラブの監督たちにも影響を与え、3バックを試すきっかけとなった。また、欧州の成功事例が映像などを通じ、Jクラブの監督の参考になった側面もあるだろう。
Jリーグでは【4-4-2】や【4-2-3-1】といった4バックを基盤とするチームが依然として多い。こうしたチームに対し、3バックは戦術的にギャップを作り出す有効な手段となる。3バックは、中央の守備を固めながら、両サイドのウィングバックが攻撃参加することで、相手SBやMFを混乱させることができる。この非対称性が3バック採用の大きな動機となっている。

Jリーグ3バック採用チームの事例
Jリーグの選手層も3バックブームを後押ししている。現代のJリーグには、守備的MFやセンターバックとしてマルチに活躍できる選手が増えている。また、ウィングバックに求められる運動量や攻撃力を兼ね備えた若手も台頭している。これらの選手の特長を最大限に生かすため、3バックを採用するケースも多い。
サンフレッチェ広島は、Jリーグにおける3バックの代名詞ともいえるクラブだ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(2006-2011)が礎を造り、森保監督時代(2012-2017)へと受け継がれた【3-4-2-1】を基調とし、2012年、2013年、2015年にはリーグ優勝を達成した。
2025シーズンも、ミヒャエル・スキッベ監督の下3バックを軸に攻撃的なサッカーを展開している広島。センターバックのビルドアップ能力とウィングバックの積極的な攻撃参加が特徴だ。特に、両ウィングバックの中野就斗や新井直人がサイドを駆け上がり、チャンスを演出する姿は、3バックのダイナミズムを象徴している。
また、2024シーズンにJ1で旋風を巻き起こした町田ゼルビアは、今季から新たに3バックを導入した。黒田剛監督は、【3-5-2】を基調に守備の安定と速攻を組み合わせた戦術を採用している。センターバックの強固な守備と、中盤の数的優位性を活かしたカウンターが武器だ。
特に、MF望月ヘンリー海輝とMF林幸多郎の若き2人がサイドで攻守にわたって高い運動量を発揮し、相手のサイド攻撃を封じつつ、素早い攻撃展開でゴールを狙う町田。4バックから3バックへの移行のケーススタディーを示し、ロングスローとセットプレーだけのチームではないことを証明しつつある。
J2ロアッソ熊本は、大木武監督の下で特徴的な3バック戦術を採用している。【3-4-3】を基調に攻撃的な選手を前線に並べ、積極的なプレッシングとパスワークを組み合わせたサッカーを志向している。守備時の安定感よりも、攻撃時の流動性を重視している。
この戦術は諸刃の剣で、大勝と大敗を繰り返す可能性はあるが、これこそが“大木スタイル”でもあるのだ。その証明に大木監督は、2002シーズン、ヴァンフォーレ甲府の監督就任以来、のべ6クラブで指揮を執っている。それだけのニーズがあるということだ。
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