
除雪ボランティアによる開催は適切か
3月2日に開催されたJ2第3節、カターレ富山のホーム開幕戦のヴァンフォーレ甲府戦(富山県総合運動公園陸上競技場/2-0)では、試合前にボランティアとしてサポーターなど350人余りが除雪にあたり試合開催に漕ぎ着けたことが報じられた。
富山はテントの設営やチケットもぎり、場内案内などでボランティアを活用しているが、気になるのは、この日の除雪作業にあたり参加者の名簿を作成し、ボランティア保険に加入させるなどの手順を踏んだ上で業務に就かせたのだろうかという点だ。
ボランティアには厚生労働省が定めた「自主性・社会性・無償性の原則」があり、法律上の「労働」にはあたらないが、指揮を受けた上で活動すれば民法上の「準委任契約」にあたり、委任者は善管注意義務を負う。こうした法律を無視し、名も知らぬサポーターに除雪用スコップを渡し作業にあたらせていたとすれば、それは違法となり得るのだ。
除雪に協力し開催に漕ぎ着けさせた富山サポーターには頭が下がる思いだが、そもそも除雪ボランティアありきで試合開催させること自体が異常であり、美談として語られることなどあってはならないのではないか。
この出来事によって「なんだ、大雪でもやろうと思えばできるじゃないか」という誤ったメッセージを世に送り出し、この報をぬくぬくと暖房が効いた部屋で耳にしたであろうJリーグチェアマン野々村芳和氏はじめJリーグ上層部が「除雪などボランティアにでもやらせればいい」と考えたとしたら、とんでもない勘違いだ。
野々村氏は、昨2024年の『スポーツナビ』でのインタビューの中で、「Jリーグが世界を目指すためのシーズン移行」とした上で、「降雪地域を切り捨てるなんてことは全くなくて、むしろその逆。僕も(北海道コンサドーレ札幌社長時代)雪国で長く暮らした経験があるからこそ、雪でも選手や子どもたちがサッカーをできる環境を作らなければいけないと思うし、スタジアムで寒さを感じずに観戦できるようにしたいと思っている」と語っている。
その言葉に嘘がなければ、一度くらいは除雪ボランティアに参加しても良かったのではないだろうか。14日には少年時代に親の転勤で2年間生活していた栃木県を訪れ、今季からJ3に参戦している栃木シティのホームタウンの栃木市・大川秀子市長を表敬訪問した野々村氏だが、そのまま東京にUターン。東北に足を伸ばし視察に訪れるという考えはなかったのだろうか。

Jリーグ側はどう感じるのか
ウェザーニューズ社調べでは、東京において、降雪の日には人の移動は4割も減るという統計が発表されている。約600万人の位置情報をビッグデータから分析した数字とのこと。豪雪地帯ともなれば、さらに人の動きが減ることは明々白々だ。
札幌在住歴があるとはいえ、かつて自らテレビで紹介した自宅は市内のマンションだった野々村氏。静岡出身である同氏が雪国に住む本当の厳しさを理解できているとは思えないのだ。
野々村氏は2023年、秋春制移行が決定されたJリーグ理事会後に、雪国クラブに対する施設整備への支援として「100億円くらいは確実に用意できている」と力強く宣言している。
しかし、その発言について先のインタビューで問われると、「“100億円”という数字が独り歩きしている」と急にトーンダウンした。結局のところ、雪国クラブのサポートなど空手形に過ぎず、秋春制導入によって雪国クラブがどれだけ不利益を被っても知らぬ存ぜぬを貫き通す腹積もりとも取れる。この状態を放置すればいずれ、「雪害(秋春制導入)によるクラブ解散およびJリーグ退会」という最悪の結果をもたらすことも考えられる。
実際、インドアスポーツであるバスケットボールのプロリーグであるBリーグが凄まじい勢いで人気を集めている。2016年からの数字では、観客動員数ではプロ野球とJリーグが横ばいである一方、Bリーグは200%の伸びを見せ、総売上では400%(いずれも2024年、NewsPicks調べ)という驚異的な成長だ。
サッカーと比べ準備すべき設備や選手数も少なくて済み、1万5,000人以上の収容人数のスタジアムを用意する必要もない。気候の影響も少なく、スモールビジネスが可能であることで、参入障壁もJリーグに比べれば低い。それでいてファンへの訴求力もある。サッカーを捨てバスケに走る自治体が出てきてもおかしくないだろう。
ホーム開幕戦、しかもダービーマッチという絶好の舞台を延期せざるを得なかった松本の無念は、外部の人間からすれば想像もできないほどだ。「何とかして開催できないものか」と奔走すると同時に情報発信を続けたスタッフの苦労も身につまされる。
しかしこの事実に触れ、Jリーグ側はどう感じるだろう。「たかがJ3の1試合や2試合が中止になったところでどうってことない」と考えるのであれば、ファン・サポーターのみならずクラブや自治体からソッポを向かれる日も、そう遠くないのではないかという危機感を覚えてくるのだ。
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