
日本代表DF冨安健洋(26歳)は、プレミアリーグの名門アーセナルでチームの主力に食い込んだ。他の国々とは勝手が異なるイングランドの守備エリアでプレーするのは、想像を絶する難しさがある。では、冨安はいかにして成功を勝ちとるに至ったのだろうか。
度重なる右ひざの故障に苦しみ先行きが不透明な今だからこそ、フットボールの母国で絶妙に機能した冨安のポリバレントな(複数のポジションを柔軟にこなせる)プレースタイルについて振り返ってみよう。
※ポリバレントな選手はユーティリティプレーヤーとも呼ばれ、複数のポジションでプレーできる選手のことで、監督にとってありがたい存在だ。負傷者が出た時や戦術変更の際に使い回しが利く。一方で、特定のポジションの専門性が落ちて器用貧乏に陥ることもある。それぞれ異なるポジションで、どれだけ高いパフォーマンスを発揮できるかが鍵となる。

DFだけでなく守備的MFでも高レベル
冨安は、DFだけではなくアンカー(守備的ミッドフィルダーの最も後方位置)でも高いレベルでプレーが可能だ。アビスパ福岡にいた頃(2015-2017)から守備的MFなど複数のポジションでプレーし、ポリバレントな能力は見せていた。
プレミアに来るまでは、ベルギー(STVV2018-2019)でもイタリア(ボローニャ2019-2021)でも、DFの中でも主にセンターバック(CB)でプレーしていた冨安。アーセナルでは右サイドバック(フルバック:FB)でプレーすることが多くなっているが、それはなぜなのか考えてみたい。
Jリーグや日本代表で冨安がプレーする場合、特段の戦術的理由がなければ監督はCBで起用するはずだ。188cmと、冨安ほどの長身の選手は日本では滅多にいないからだ。
しかし、アーセナルでは、むしろCB以外のポジションで見かけることのほうが多い。アーセナルのCBは、冨安より上背があることもしばしば。冨安もプレミアでCBでプレーするのに十分な体格を備えているが、それ以上に大柄の選手が揃っているのが世界最高峰プレミアリーグだからだ。
空中戦にも競り負けない大柄な身長と強いフィジカルがありながら、ピッチを上下に動き回る走力とアジリティと運動量があり、FBとしても高い能力を発揮する冨安。守備的MFでは、それに加えて巧みなボール捌きやビルドアップの能力も求められるが遜色なくこなす。
近年のゴールキック・ルール変更に伴い、ディフェンスラインからビルドアップする傾向が顕著になったため、足元でボールを捌く冨安の技量はさらに生かされることになった。

イングランドの守備陣の特異性にフィット
イングランドでは、キックオフから斜め前方に蹴り込む傾向がある。最初の競り合いは断然、守備側が有利だが、そのセカンドボールを拾おうという意図だ。ボールを大事にするチームは使わない手だが、イングランドではこれがキックオフのスタンダードといっていいほど主流だ。その空中戦では、FBも競り合うことになる。
キックオフはプレーが定位置から始まるので分かりやすいが、このように前方に蹴り込む状況判断は試合の各場面で頻発する。一か八かで相手ディフェンスラインにロングボールを入れてくる。いわゆるイングランドの伝統戦術「キック・アンド・ラッシュ」だ。
また、全般的に大柄の選手が多いだけではなく、大きい選手を好む傾向がある。それは、空中戦やフィジカルを全面に出した競り合いの多さが理由だ。
ディフェンスラインの4枚と守備的MF2枚の合わせて6人が、他国リーグに行ったらCBの適性がある、というラインナップもしばしば見受けられる。これが、イングランドにおける守備陣の特殊性である。
CB的な選手が異なるポジションでプレーする。つまり、イングランドは、ポリバレントな能力を持ったCBが求められる機会が多いのだ。
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