横浜F・マリノス AFCチャンピオンズリーグ

この横浜に優るあらめや。F・マリノス、30分だけ完遂の攻撃サッカーでACL決勝へ

ハリー・キューウェル監督 写真:Getty Images

「良いプレスが大事」

キューウェル監督は試合後の会見で、筆者の質問に回答。チーム全体としての連動した守備が、前半の3ゴールに繋がったことを強調している。

ー前半、アンデルソン・ロペス選手を起点に相手のパスワークを片方のサイドへ追いやることができていたと思います。この点について監督の評価をお伺いしたいです。また、第1戦と比べてチーム全体のハイプレスの強度や連動性が高かったからこそ、今回の3ゴールに繋がったと私は感じています。いかがでしょうか。

「アウェイでの第1戦でもプレスは良かったと思っています。やはり良いプレスを続けることが大事ですし、プレスはロペス個人でできるものではなく、一人ひとりに役割があるなかで、チーム一丸となってやっていくものです。今日の試合のなかでも、そうした部分(チーム全体としての連動した守備)をしっかり出せていたと思います」


ホン・ミョンボ監督 写真:Getty Images

ホン・ミョンボ監督の采配に対応できず

2戦合計スコア1-3と劣勢に陥った蔚山のホン・ミョンボ監督は、前半34分にMFダリヤン・ボヤニッチを投入し、基本布陣を[4-4-2]から[4-1-2-3]へ変更。このフォーメーションチェンジに対応できず、ハイプレスを緩めてしまった横浜FMは蔚山の自陣後方からの配球を許し、前半35分にサイド攻撃を浴びる。この1分後に行われた蔚山MFイ・ドンギョンのコーナーキックをMFマテウス・サレスに物にされ、ホームチームは2戦合計スコアで1点差に詰め寄られた。

前半39分には敵陣でのボールロストからボヤニッチにボールを運ばれ、攻め上がっていたDF永戸勝也(左サイドバック)の背後へパスを通されてしまう。横浜FMのセンターバック上島が自陣ペナルティエリアでスライディングを仕掛け、蔚山FWオム・ウォンサンのドリブルを止めようとしたものの、ボールが無情にも上島の腕に当たる。上島による決定的な得点機会の阻止で蔚山にPKが与えられたうえ、同選手にはレッドカードが提示された。

ボヤニッチのPKは成功。横浜FMは2戦合計スコアを3-3の同点にされたうえ、3月13日のACL準々決勝第2戦(山東泰山戦)と同じく10人での戦いを余儀なくされた。


加藤蓮 写真:Getty Images

横浜FMが瀬戸際で発揮した柔軟性

10人という難局を乗り越えるべく、キューウェル監督は後半開始前にDFエドゥアルドとMF山根陸を投入。布陣を[4-3-2]に組み直したが、最前線から中盤に降りてくるFWチョ・ミンギュや、逆に中盤から最前線へ飛び出すMFイ・ドンギョンを捕まえきれない。豊富な運動量で広範囲をカバーでき、先述の山東泰山戦でも守備面で気を吐いた喜田拓也と渡辺皓太の両MFを欠いたことで、最終ラインと中盤の間にボールや人を通され続けた。

3セントラルMFの外側もボヤニッチに使われ始め、[4-3-2]の横浜FMの守備ブロックは崩壊寸前だったが、キューウェル監督がMF水沼宏太とDF加藤蓮を投入し、彼らに3セントラルMFの左右を担当させたことで守備の出足や強度を維持。後半終了間際に[4-4-1]、延長戦では5バックを敷くなど、ピッチ上の選手たちの助けとなる手は全て打てていた。キューウェル監督の当意即妙な布陣変更、それに応えた選手たちの柔軟性が物を言った一戦だった。

横浜FMらしいアタッキングフットボールを披露できた時間は短く、むしろ受難の時間帯が長かったが、見方を変えればハイプレスを基調とする攻撃的サッカーを完遂した前半の30分間で3ゴールを奪えたことが、今回の決勝進出に繋がったとも言える。まさにアタッキングフットボールの勝利。「この横浜に優るあらめや」と誇りたくなるようなビッグマッチだった。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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