2023明治安田生命J1リーグ、第13節。アビスパ福岡は因縁渦巻くサガン鳥栖とのダービーマッチに挑み、45分以上を11人対10人の数的有利で戦いながら0-0。試合後、スタンドの前を歩く選手たちに送られたのは、拍手とブーイングの両方だった。
さまざまな感情が入り混じる中に、この試合スタメン出場しながらも後半30分に交代となったMF重見柾斗がいた。来2024シーズンからの加入内定が発表され、現在は特別指定選手として福岡に所属する身だ。この重要な一戦で、重見はボランチの一角として75分間にわたりタフな守備、ボール奪取、ボールを受けての展開を冷静に遂行。コンビを組むMF前寛之が数多く攻撃に参加していたことも、重見への信頼を感じさせた。少なくとも筆者を含め、重見への称賛を何度も送る観客にとって、そのプレーは秀でたものに見えた。
激戦から3日後の5月17日。練習後の重見にその感想を伝えてみた。すると、本人から返って来たのは「今までの試合で1番プレッシャーを感じました。正直、ボールと関わることにビビっている自分がいました」という素直な反省の言葉だった。
ボランチ不足に悩まされてきた福岡
2020年のJ1昇格以降、福岡はトップリーグで3シーズン目を過ごしている。リーグ内での年間予算は下位だが、順位は常にそれを上回る。リーグ屈指の強度を誇るセンターバック陣「アビスパの心臓」ことMF前寛之のほか、ここまで6得点を挙げているFW山岸祐也など、チームの背骨であるセンターラインを中心に優れた選手が揃う。ただし、ボランチの層には、これまで常に不安がつきまとっていた。
5シーズンぶりのJ1となった2021シーズンは、絶対的な存在である前の相棒探しに苦戦。前半戦はMF重廣卓也(現・名古屋グランパス所属)やMF田邉草民、MFカウエ(現・シアノルテ所属/ブラジル)らを併用。夏の移籍市場でMF中村駿を獲得し、前と中村のコンビが確立されてようやく一応の解決をみた。しかし、2人ともがスタメンにいなければ守備の強度は維持できず、層の薄さは否めなかった。
翌2022シーズンも大きなテコ入れとはならず、前と中村のコンビがほぼフル稼働。夏の移籍市場で重廣が移籍、レフティーであるMF平塚悠知の加入はあったものの、体制に大きな変化は起こらず、その後、チーム全体への新型コロナウイルス蔓延や中村の離脱が重なり、第23節から大苦戦。第29節までの7試合で1分6敗と1つの勝利も挙げられず、最終節まで降格の恐怖と戦わなければならなかった。
けが人続出のピンチで重見にまわってきたチャンス
危機感のためか今2023シーズンに向け、福岡はこのポジションに明確なテコ入れを実施。前&中村コンビを維持しつつ、期限付きながら元日本代表のMF井手口陽介を獲得。これでボランチは3枚看板になった。田邉や平塚、若手のDF森山公弥などもおり、懸念点はついに払拭されたかに思われた。
ところが井手口は3月4日、移籍後初先発を飾った第3節柏レイソル戦で右足関節外果骨折を負い全治3か月。森山も同月8日のJリーグYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)アルビレックス新潟戦で左膝外側半月板損傷を負い、全治6か月と長期離脱が決定した。
リーグ戦では再び前&中村コンビがフル稼働し、場合によっては田邉が試合終盤を締める形で勝ち点を伸ばすことができた。ただし、ミッドウィーク開催のルヴァン杯までこの2人を起用するのは難しい状況。そんなチームのピンチは、3月31日に特別指定選手となったばかりの重見にチャンスをもたらした。
認定からわずか5日後、重見はルヴァン杯第3節の鹿島アントラーズ戦でベンチ入りすると、後半20分から途中出場。第4節の鹿島戦では初スタメンで初のフル出場、チームも2-1の勝利を飾った。
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