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ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】前編「夢だった仕事」

「夢だった」ピッチサイドリポーター

高校時代の国体でのアナウンス経験で興味をもち、「サッカーに関われる仕事をしたい」と考えて大学時代にピッチリポーターを目指した加戸さん。それでも、現実的には可能性すら感じられず、大学時代に「諦めた」という。

2011年の大学卒業後には東京で就職予定だったが、事情もあって岡山へと帰郷。岡山県内の一般企業で秘書として勤務する中、「私が本当にしたいことは何なのか?」と考えたそうだ。加戸さんには、いわゆる“局アナ”の経験がない。彼女はどのようにして経験を積み、ピッチリポーターになったのだろうか?

―岡山に帰郷後、どのような経験をされたのですか?

「何がしたいのかを考えた時、『大好きなサッカーについて話したい』と思って、リポーターになると考えました。そのためにはアナウンスやナレーションの勉強をしないといけません。そこで、妹が当時所属していた岡山湯郷BelleのスタジアムMCを担当されていた村松美保さんを紹介してもらって、村松さんが所属されているアナウンサー事務所(株式会社トーキング・アイ)に入ることができました。周囲の人達にはかなり迷惑をかけていたと思うのですが、現場で貴重な実戦経験を積むことができたと思っています」

―その頃からピッチリポーターになるチャンスは感じていたのですか?

「正直、全く感じていませんでした。ただ、RSKさん(山陽放送)でのお仕事を任されるようになってから、ラジオで朝の3時間のワイド番組を担当していたんです。その中でスポーツ枠があるんですが、ラジオは比較的フリートークできる時間があるので、『もうココしかない!』って思って。そこでファジやサッカーのことを話してサッカー好きをアピールしていました。でも、取材したこともないので、自分の考えていることをストレートに言葉にして話していたんです。それを聞いてくださって声を掛けていただきました」

―そうして掴んだ実際のお仕事についても伺いたいです。現地入りするのはキックオフ何時間前になるのですか?

「集合は試合開始2時間半前になっているんですが、私は3時間半前には絶対に入っていますね。両チームが会場に到着した際の“アライバル・インタビュー”を収録します。それが最初の仕事ですね」

“予習”の一部を見せてくれた加戸英佳さん 撮影:筆者

―担当になれば“予習”も必要になると思います。岡山の対戦相手の試合も観ているのでしょうか?

「自宅で直近の3試合は観るようにしていて、チームの特徴やメンバー構成、試合中のフォーメーションの変化を記録して、ストロングとウイークになりそうなポイントを自分で分析して資料作りをしていると、夜中2時頃になっていることもありますよ(笑)。

それと必ずエルゴラ(※1)さんの担当記者さんに電話をしてチーム状況などを聞くようにしています」

※1 エルゴラ:サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』(株式会社スクワッド発行)

―そういう連絡網があるのですか?

「案内の資料に担当記者さんの電話番号などが共有されていて、試合に臨むにあたって不安な点や疑問点などをアウェイ側の担当者さんに聞いています」

―ただ、準備して来た情報を全て使うことができません。情報の取捨選択が難しいお仕事ですよね?

「リポ―ターの先輩方や関係者の方々は、『準備して来たことで使えるのは2割』と仰っています。私自身もそう思います。ただ、それでも準備してきたことが活きる時もあります。でもインタビューでは、『自分の目で見たこと、感じたことを大事にして臨むように』と心掛けていて、実際に用意してきたことよりも、ピッチで起きたことや疑問に思っていることをインタビューで聞いた時の方が良い感触がありますね」


競争の激しい世界だからこそ、1試合1試合を大切に

―ご自身のInstagramの中でも、そのストイックな部分が出ていますよね?

「私の場合だとインタビューの反省点をよく書いていますね。実際、自宅で試合を観る時も分析とは別に、自分のインタビューで質問や聞き方を文字起こしをして反省する時間もあります。それから、他のリポーターさんのインタビューもよく聞いて勉強するという毎日ですね」

https://www.instagram.com/p/CMIujVKF9H0/?utm_source=ig_web_copy_link

―インタビューとなると選手はもちろんですが、監督との関わりが重要な気がします。

「それが・・私がリポーター2年目だった2018年のことです。J2第13節の岡山VSアビスパ福岡戦で試合終了間際のオウンゴールによる失点でファジが追いつかれた試合があったんですが、試合終了直後のインタビュールームに当時の長澤徹監督(現・京都ヘッドコーチ)が向かって来られたのですが、明らかに顔が怒っていて、実際にどんな質問をしても『そうですね、そうですね』だけで終わってしまって・・。今までで1番反省しているインタビューです。

プロデューサーさんには、『監督の怒っている顔を映像に出すのも大事なこと。リアルなことだから。サッカー中継に正解はないんだし。でも、その状況でも監督がいつもホームゲームを担当している加戸さんを見たら、落ち着いて話せるような雰囲気作りも大事じゃないかな?』とアドバイスされまして、監督との関わり方の重要性というのは身をもって実感しました」

―監督や選手との関係性を構築するには普段から練習場に通う必要がありますよね?

「それまでも練習場には行っていたんですが、監督の囲み取材などではまだまだ後ろから聞いているだけなことが多くて。ただ、その一件があったので現在の有馬賢二監督になってからは特に積極的に聞くようにしています」

―それだけ聞いていると長澤監督が怖かったのかな?となります。でも、長澤さんは「監督」という立場だったので演じていたのかもしれませんね?

「そう思います。実際、優しい人です。私がプライベートで友人と映画を観に映画館に行った際に記念撮影ができるブースがあったんですが、偶然にも長澤監督が奥様と来場されていたんですね。私は友人とポーズをとりながら写真を撮っていたら、それを長澤監督は優しそうな表情で見守っていただいていました(笑)」

―とはいえ、コミュニケーション力が問われる世界です。

「最初は全く知らない世界だったんですが、時間が経つにつれて実は妹や大学の知り合いがいて、そういう関係からどんどん繋がりが出来て来るんですね。コミュニケーションの部分は確かに気を遣うところなのですが、そういう面白い世界でもあると思いますね」

―大変なこともあるピッチリポーターの仕事ですが、入る前の「夢だった」頃から現在も天職であり続けていますか?

「最初は余裕がなくて自分のことで精いっぱいで、ただただ仕事をこなしている感じだったかもしれません。でも、今は色んな経験もしたことで、より深みのある楽しさを感じることができています。ただ、競争が激しい世界なのは事実ですし、岡山でのリポーターの枠は1つしかありません。だから、1試合1試合の担当を大事にしていきたいです」


サッカーに対して真摯に向き合う加戸さん。そんな加戸さんが取材する地元・ファジアーノ岡山について伺い、J2の楽しみ方を探った「後編」はこちら

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