
ポリバレント(多様性)とユーティリティ(使い易い)の違い
現代サッカーでは多くの選手が複数のポジションをこなすことができる。「ポリバレント」や「ユーティリティ」と表現される選手は年々増えている。
しかし、「ポリバレント(多様性)」と「ユーティリティ(使い易い)」は全く違う。
「どんなポジションでもプレーできる」のは同じだが、自分のプレースタイルを起用されるポジションによって変化させるだけでは使い勝手の良い「ユーティリティ」であるに過ぎない。チームに怪我や出場停止による欠場者が出た場合、「どんなポジションでも穴埋めができる」「ベンチにいたら便利な選手」を指しているため、ユーティリティな選手は控え選手であることも多い。
逆に「ポリバレント」とは何か?日本にこの単語を持ち込んだイビチャ・オシム元日本代表監督によると、ポリバレントな日本人選手に長谷部誠を挙げていた。日本代表の元主将であるMF長谷部は所属するアイントラハト・フランクフルトではリベロを定位置とし、代表ではボランチとしてプレーしていた時期がある。そして、今季の長谷部も急にボランチとして抜擢されても即座に適応した。やっているプレー自体はそう変わらないからだ。
ポリバレントの象徴的な選手であるドイツ代表のジョシュア・キミッヒ(バイエルン・ミュンヘン)は、本職のボランチ以外にもサイドバックやセンターバックなどもこなす。しかし、彼はスピードや身体能力に頼るプレーはできない。あくまで「キミッヒのプレー」を各ポジションでこなすことによって、チームに異なる価値を与えているのだ。
ポリバレントな選手とは、自分のプレースタイルを変えずにポジションや組み合わせ、使い方を変えることによって、新たな価値や機能を生み出せる選手のことだ。

「宇佐美貴史」のプレースタイルを確立せよ!
宇佐美は2014年の3冠獲得後にサイドMFにコンバートされた時期も苦しんでいた。そして、2019年夏のG大阪復帰後も様々なポジションで起用されてきた。
それらは確かに彼のゴール数が伸びない要因の1つだが、宇佐美は起用されるポジションに合わせてプレースタイルを変え過ぎている。現在もFWとしてプレーしていながらもチーム状況や監督の意向なのか、守備やゲームメイクを意識し過ぎている。
「一般的なサイドMFのようにプレーする宇佐美」と「サイドMFの位置でプレーする宇佐美」では、全く異なる。「一般的なインサイドMFとしてプレーする宇佐美貴史」は、おそらく“宇佐貴史”か、“宇佐耳貴史”という別の選手であって、「MFの位置で宇佐美貴史のプレースタイルを出してもらいたい」のが、監督やコーチ陣の考えだろう。そうでなければ、本職のMFを起用すれば済む話なのだから。
宇佐美のかつての同僚であり、同世代のライバルでもあるアラバとフィルミーノは共に世界王者となり、ワールドクラスの選手に成長した。そして、現代サッカーに現れた未来型の選手として世界中から模範的な選手として高く評価されている。
全員攻撃・全員守備が当たり前で、攻撃時と守備時にフォーメーションを変化させる可変システムも多くのチームが採用する現代サッカーはポジションレスの時代だ。
宇佐美には起用されるポジションや役割ではなく、溢れんばかりのポテンシャルや類まれなキャリアで培った経験を凝縮し、今一度自らのプレースタイルを確立してもらいたい。
そうすることで、自身をさらなる進化と深化に導き、真価を発揮してくれるはずだ!
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