著者:Gian Chansrichawla(フットボール・トライブ・東南アジア)
すべての有名な外国人選手がタイで成功しているわけではない。海外では賞賛されている多くの選手が、絶えず流れている外国人選手のベルトコンベアーから逃げるのに苦労している。多くが地元リーグに留まって影響を与えることができていない。
この現象を説明するために多くの理論が生まれた。例えばそれは気候の暑さ、あるいは文化への適応の難しさなどだ。私はタイ常駐の戦術的なエキスパートではないが、これを説明するに重要なことは、試合状況そのものに関係していると主張したい。
ほとんどの場合、外国人選手は地元の才能を上回り、チームの水準を引き上げることを目的として獲得されている。これは地元選手を見くびったコメントではない。自国の才能が絶えず向上していることにより、特に攻撃に関して外国人を起用することでクラブはさらに発展することができている。つまり、この差はリーグにとって好ましいことだ。
しかしながら、その地位と認識が選手たちに不公正な責任を課すことが多い。各チームに4人の外国人選手(ASEANを除く)しか許可されていないため、少数の個人グループとチームの他のメンバーとの間に亀裂が発生することがよくある。
その結果、コーチはそれらの選手に対してチーム内で複数の役割を果たすことを期待するという悪循環に陥ることがあり、同等かそれ以上のレベルの選手たちに囲まれた選手にとって、果たすべき役割の範囲をはるかに超えてる。つまり、タイのクラブは特定のポジションのスペシャリストである選手を獲得するが、ピッチ上では他の多くの役割を求められ、彼らが名を馳せてきた専門の役割で輝く能力を奪われるのだ。
「あなたはフェラーリを買ったのに、フィアットのように運転する」と、ズラタン・イブラヒモビッチがバルセロナ時代にジョゼップ・グアルディオラ監督に対してしたコメントは、この状況を言い得ている。
ブリーラム・ユナイテッドの細貝萌の例をあげたい。浦和レッズで2007年AFCチャンピオンズリーグ優勝の中心的な役割を果たし、最高の年の大半をブンデスリーガで過ごし、日本代表で30回の出場をしてきた32歳のMF細貝は、近年の怪我に苦しんだ問題を除いたとしても、明らかにタイリーグのアベレージを上回る選手だ。
細貝は、守備的MFのポジションで名を挙げた。相手のプレーを打ち破り、横パスで味方の攻撃陣を再開させるポジションだ。ブリーラムでは、もう1人の守備的MFラッタナクーン・マイカミと2人ボランチを組んできた。これは、プレーメイクに対する責任も日本のベテランに課されたことを意味する。
私は今シーズン以前の細貝のプレーをよく見てきたわけではないが、彼のプレーの性質から、通常2人ないし1人のミッドフィルダーが彼の前でプレーすることに慣れているのではないか。現在のブリーラムの体制で細貝は、中盤と3人の攻撃陣の間のリンクマン的な役割であり、しばしばブリーラムに対して守備を固めるチームに苦戦する。役割を完全に果たすことができるリーグで最も熟練した選手の1人であるのにもかかわらず、また最も記憶に残る外国人選手になり得るにも関わらず、ブリーラムが彼の最善を引き出せていないことは事実だ。
ムアントン・ユナイテッドのMFヘベルチも、この現象のもう1つの例だ。ヘベルチの明らかなベストプレーは守備陣のオフショルダーとしての役割や、1対1の状況、スルーボールを突き抜ける走りなどに見られる。しかし背後にあるクリエイティブな才能が不足しており、攻撃的ミッドフィルダーのポジションに戻ることを強いられた。キリンズで活躍してきた多くの時間とは異なる方法で、輝かしいゴールの出力を支える役割を果たしている。
タイリーグで最高の選手の1人であるにもかかわらず、実際よりむしろ致命的な選手であることを数字は示唆している。ラーチャブリーでのゴール率0.72から、タイトル争いの競合ムアントンでは0.68。つまり新しいポジションのマイナスの影響は大きく、より良いチームメイトに囲まれたプラスの影響を上回っている。
このような例がリーグ中に散らばってるのだ。ポートのストライカー、ドラガン・ボスコヴィッチも相手選手に体をぶつけ、ボールをキープするのが得意だったが、オールラウンダーであることを余儀なくされている。これも結果的には得点力の損失となっている。
この問題が、体系的なものだとは言えない。外国人選手の割り当ての存在から、選手たちがこの方法に苦戦することは避けられないだろう。むしろ、リーグのコーチたちにとって、微妙なバランスをとる行為にもう1つの層が加わったということだ。そして地元の才能の「1段階上」の存在であるために、外国人選手にかかる責任が積み重なっていることを示している。
コメントランキング