ワールドカップ

素晴らしい開催国となったロシア、W杯の遺産への期待と不安

モスクワに集結したイングランドサポーター 写真提供:Getty Images

 しかしその祭典も、今日の決勝戦で正式に幕を閉じる。宴を最後まで楽しんだファンが去っていくことで非日常的な時間は終わり、警官が笑顔で写真撮影に応じることもなくなるだろう。現地の人々も、それを十分に理解しているようだ。新しいスタジアムなのど施設が将来も有効に活用されるはず、という前向きな意見もある一方で「後には何も残らないでしょう。ここでは、そういうものなんです」とある現地の住民は悲観的な考えを述べている。

 実際、より自由な空気の流れた1ヶ月間は一時的なパフォーマンスに過ぎないとする見方は強い。大会中は大目に見られていた多くの行動も、「ロシア人にとってそれはW杯と共に終わる」と政治評論家のスタニスラフ・ベルコフスキ氏は語っている。祭典が終われば、すぐに政府や警察などの権力が再び抑圧的な態度を取り戻すというわけだ。素晴らしい大会が「(ロシアについての)誤ったイメージやステレオタイプを打ち消した」と語ったウラジーミル・プーチン大統領の言葉は、大会開催に当たって彼がイメージ戦略を重要視していたことの裏返しでもある。

 大会前に指摘されてきた人権問題や暴力、同性愛嫌悪や人種差別が大会中に表面化することはなかった。しかし現地の人権団体は、ロシアに対する評価はW杯後も人権を尊重する態度を継続できるかに掛かっていると警告している。一方でFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長はサッカーとW杯がこうした問題についての議論や対話を始めるきっかけとなったのであれば、そこには意味があるはずだと語っている。

 W杯開催中、モスクワの赤の広場には小さなフィールドが設置され、様々な国の人々がサッカーを楽しんだ。オーストラリア『SBS』はオーストラリア人チームとのプレーを楽しんだ現地人の声を紹介している。

「今回のW杯開催で一番に私たちが学んだのは、ここに来た外国の人々が非常に友好的でフレンドリーだという事でした」

「W杯による普段とは違うメンタリティのおかげで、他国との友情を育むことができました」

 市民レベルでのこうしたポジティブな国際交流の体験が、すぐに忘れ去られることはないだろう。こうした見えない遺産が将来、少しずつでもロシアと世界のために役立つことを願うばかりだ。

著者:マリオ・カワタ

ハンガリー生まれドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC

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