代表チーム ワールドカップ

歓喜から悲劇へ。それでも危機を乗り越えて未来への土台を築いた日本代表の戦い

強豪ベルギー代表を最後まで苦しめた日本代表 写真提供:Getty Images

 ラウンド16では、今大会最も好調なチームのひとつであるベルギーという強敵が待ち構えていた。戦前の予想では当然彼らが有利だったが、実際には日本の欠点のないディフェンスを前に前半はほとんど何もできなかった。特にセンターバックの2人はほぼ完璧だった。吉田麻也も昌子源のどちらかが常にロメロ・ルカクを徹底的にマークし、デュエルに勝利して巨大なセンターフォワードに持ち味のフィジカルを発揮させなかった。アザール、メルテンス、カラスコは攻撃に絡んではいたが脅威にはならず、前半の45分で川島の方へ飛んだシュートは2本だけ。しかも日本代表は守備的にプレーしていたわけでもない。サムライたちは相手陣内でプレスを掛ける時間もあり、チャンスも作っていた。大迫が長友のクロスに合わせ切れなかった場面では、クルトワは危うく大きなミスで失点するところだった。

 後半に入りベルギーがより攻撃的なスタンスを取ると、日本は(柴崎岳の素晴らしいパスを受けた)原口元気と乾貴士の素晴らしいシュートで4分間で2ゴールを決めて見せた。ショック状態の「赤い悪魔」はフィールド上をさまよい、パスミスを連発し始める。この時点で試合は日本のもので、ベルギーのスペイン人指揮官ロベルト・マルティネスも何をすべきか分からない様子だった。今大会で初めて全力で臨んだ試合だったのだから無理もない。それでも彼はすぐに2枚のカードを切り、カラスコとメルテンスに代わってフェライニとシャドリが投入された。

 そして、勝利の女神はベルギーに微笑んだ。おそらくクロスのつもりだったフェルトンゲンの思いがけないヘディングが川島の頭上を越え、ネットを揺らす。これにより試合の流れは完全に変わった。5分後にはフェライニがアザールのクロスに頭で合わせて同点。この時またしても西野監督は90分で試合を勝ちに行くというリスクを取るが、今回はその賭けに負けた。95分の鋭いカウンターからシャドリがゴールを決め、ベルギーはなんとか準々決勝へのチケットを確保した。日本は数分のうちに天国から地獄へと突き落とされ、それは新たな「ドーハの悲劇」ともいえる体験だった。

 ポジティブな点とネガティブな点を比較すれば、日本にとっての今回のW杯は期待を大きく上回る前向きなものだったと言えるだろう。選手たちは自信を取り戻し、好パフォーマンスによって世界最高レベルの代表チームとも互角に戦えることを証明した。残念な形で大会に別れを告げることにはなったが、日本だけでなくアジア全体に誇りを与えたその戦いぶりには胸を張るべきだ。 危機を乗り越え、進化を続けるための土台を作ることに成功した。次の目標は2019年アジアカップ。新たな時代が到来する。

著者:チアゴ・ボンテンポ

1985年生まれのブラジル人ジャーナリスト。サンパウロ在住。幼少期よりスポーツとりわけサッカーを愛する。大学時代にジャーナリズムを専攻し2011年よりブラジル『Globo Esporte』で日本サッカーを担当している。ブラジルのボタフォゴ、アーセナル、そして日本代表の熱烈なサポーターである。将来の夢は日本語を流暢に扱うこと、富士山登頂、Jリーグスタジアムを巡ること。

Twitter: @GunnerTNB

ページ 2 / 2