二人のサンチェス物語
ひとりは微笑み、ひとりは俯いていた。
トッテナムvsマンチェスター・ユナイテッドの上位対決。二人のサンチェスが象徴したのは、成熟度の差だった。
まだ青いアレクシス・サンチェス
ひとりのサンチェスは苦しんでいた。
アーセナルから、鳴り物入りで移籍してきたアレクシス・サンチェス。この冬をにぎわせたチリ人は、ウェンブリーのピッチでは、鳴りを潜めた。というよりも、そうならざるを得なかった。
その疑いようのないクオリティは、間違いなくユナイテッドの攻撃を、ワンランク押し上げるはずだ。しかし、この試合では、そのクオリティについて来られる味方選手が少なかった。
無理もない。アレクシスがマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを着るのは、これが2試合目だし、リーグ戦では初めてだったのだから。ポグバやマルシャル、ルカクなどとの連携がうまくゆかず、ボールを持っても周りの反応が鈍かった。
チームとしての機能性を欠いたのは、攻撃面だけではない。
バイリーを欠くセンターバック。コンビを組んだのはジョーンズとスモーリングだった。人に強いタイプの二人は、自分のポジションを捨てて、マーカーを捕まえようとする傾向が強い。当然、彼らが空けたスペースを、カバーする必要がある。
その役割を担うサイドバックには、本職ではない、バレンシアと、ヤングが起用された。サイドバックにコンバートされて久しいバレンシアはまだしも、ヤングはこのポジションを務め始めて日が浅い。
縦横無尽のコンビネーションで、相手をかく乱する、トッテナムの攻撃陣を相手にするには、経験が十分ではなかった。特に、彼が対峙したエリクセンは、プレミアリーグ屈指のチャンスメーカーだ。抜け目なく、中間ポジションをとるデンマーク人を、捕まえるに捕まえられず、フラストレーションを溜める一方だった。
すっかり熟れたダビンソン・サンチェス
もうひとりのサンチェスは楽しんでいた。
笑顔でプレーしていたわけではなく、自分が何をするべきなのか、味方が何をしているのか、理解しているので、スムーズに、楽にプレーしていた。
アルデルヴェイレルトの代役では、もはやない。
去年の夏に、アヤックスから加入したセンターバックは、加入当初は、3センターバックの一角で起用されることが多かった。しかし、アルデルヴェイレルトの怪我で、2センターバックでも起用される機会が増えた。
展開が早いプレミアリーグに慣れるのは難しい。ダビンソンも序盤は苦しんだ。しかし、この試合でもそうだったように、対人の強さを守備で、パス出しのうまさを攻撃で、発揮できるようになっている。酷いプレーに終始した、ルカクのパフォーマンスの影にも、ダビンソンの存在があったのだ。
チームとしての成熟が、ダビンソンを助けた。
監督が替わらず、チームのコアプレーヤーたちが残ったスパーズ。4年間かけて作り上げたスタイルは、きっちりチームに浸透している。コロンビア人ディフェンダーは、それに従ってプレーするだけでよかった。だから順応も早かった。
一見無秩序に、しかしひとりの人間のように、統率のとれた動きを見せるトッテナム。特に前線4人のコンビネーションは、常にユナイテッドに脅威を与えた。
エリクセンが指揮を執る攻撃陣は、ボールを奪われた後の切り替えも早い。さぼらない。
とにかく、各選手がやるべきことを理解し、それを淀みなく遂行している。
アンラッキーな敗戦ではなく…
成熟度の差が勝負を決した。必然だった。
開始1分の失点。オウンゴール。途中出場のフェライニが負傷交代。ユナイテッド側から見れば、「自分たちの日じゃなかった」と、理由をつける要素は、いくつかあった。しかし、それは言い訳に過ぎない。後半、ピッチ上には、白と紺のユニフォームしかいなかった。ビジターチームは、2失点で終えられて「運があった」と、考えるべきだろう。
実際は、二人のサンチェスに象徴される、成熟度の差が、違いを生んだのだ。
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