
日本サッカー協会(JFA)が近年、様々なプロジェクトにおいてクラウドファンディングを活用している。一般的に、JFAは日本代表戦の放映権料やチケット・スポンサー収入など、潤沢な資金を持つ巨大組織というイメージが強い。それだけに、「なぜJFAが資金調達を個人に頼るのか」という疑問が生じるのは当然だ。
ここでは、JFAが進めている具体的なクラウドファンディングプロジェクトの内容を紹介するとともに、その背景にある財政構造を分析し、真の目的を考察する。単なる資金繰りの問題なのか、それともファンとの新しい関係性構築を目指す戦略的な一手なのかも検証していく。

JFAの財政構造と事業規模
現在、JFAが推進しているクラウドファンディングには、「フットサル日本女子代表、FIFAフットサル女子ワールドカップフィリピン2025へ」(目標200万円)、「JFAユース審判員海外遠征プロジェクト~アジアチャレンジツアー~」(目標300万円)の2つがあり、10月10日からは「なでしこジャパン、再び世界一へ!日本の未来を輝かせる選手たちを応援しよう」(目標500万円)と銘打ったクラウドファンディングがスタートした。10月3日に終了した「サッカー日本代表の勇姿を、次世代を担う子どもたちに届けたい!」(キリンチャレンジカップへの子ども招待)では、目標金額の100万円を大きく超える175万円以上の金額が集まった。
JFAの公式サイトで公開される予算書によると、2025年度の正味財産ベースでは、収入約214億円、支出約230億円とし、正味財産増減として約16億円の赤字を見込んでいる(JFA2025年度予算書)。この赤字の主因は、来年に迫ったW杯に向けたA代表の強化や全国的な普及事業の拡大にあるとみられる。一方で、2023年度の決算は、正味財産ベースで収入299.2億円、支出226.2億円、当期正味財産増加額 73.0億円となっており、組織全体として深刻な資金不足に陥っているわけではない(JFA2023年度決算)。
一方で、固定化された支出も非常に多い。JFAは男子A代表を筆頭とする11人制サッカーのみならず、フットサル、ビーチサッカーの各カテゴリーにおける男女の日本代表強化費の他、育成年代の強化・普及、指導者養成、審判員育成、全国各地のサッカー施設整備などに資金を投じている。特に、サッカー人口の裾野を広げるための普及活動や育成年代への投資は短期間で収益を生まないものの、日本サッカーの未来には不可欠な費用だ。
JFAが組織全体として“金欠”であるという直接的な証拠は乏しい。むしろ「公益財団法人」ゆえに、非営利である育成事業への予算を組みにくい構造が背景にあると考えられる。JFAがクラウドファンディングに乗り出す意味は、単なる資金調達を超えた戦略的意義があると分析できる。

既存予算が組みにくい特定領域への資金確保
男子A代表の国際親善試合開催によって生まれた収益は、JFAのコア事業であるA代表の強化や大規模な普及・施設事業に充てられる。しかし、クラウドファンディング対象のプロジェクトは、既存の強化・普及予算の枠の外にある、ニッチでなかなか予算が付きにくい領域だ。
フットサル日本女子代表のW杯遠征費は、男子A代表に比べ収益性が低いため、予算編成上、優先順位が低くなりがちだ。クラウドファンディングは特定のファン層から必要な資金を直接調達する合理的な手段となる。
ユース審判員の海外遠征費についても同じことが言える。審判員の育成は日本サッカー界の急務だが、海外遠征費用は組織全体の中で目立たない項目である。このプロジェクトは、審判員の国際経験機会の提供という、未来への投資をファンに直接訴えかける側面もあると言えよう。
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