
判定は機械に委ねられる時代へ
審判分野では、Semi-Automated Offside Technology(SAOT=半自動オフサイドテクノロジー)が2022年カタールW杯で導入された。スタジアム上部に設置された複数のカメラとボール内蔵センサーが選手とボールの位置情報を取得し、オフサイド判定を支援する仕組みだ。1秒間に多数のデータを送信するとされ、判定時間の短縮と精度向上に寄与したと報告されている。
また、アマチュアレベルでは「Veo」カメラが普及しつつある。試合映像を自動追尾・自動編集し、ハイライト生成や分析を可能にするもので、プロ・アマを問わずデータを基盤とした戦術立案を後押ししている。審判支援から育成現場まで、AIとデータ解析は着実に浸透している。
AI依存が招いた混乱
一方で、AI活用を巡る混乱も報じられている。2024年8月、ロシア・プレミアリーグのPFCソチを率いていたロベルト・モレノ氏が解任された。同氏はかつてスペイン代表でルイス・エンリケ監督(現PSG監督)の下でヘッドコーチを務め、2019年にはエンリケ氏が家族の看病のため一時離脱した際に代行監督として10戦8勝2分けの成績を残した実績を持つ。
しかしソチでは、データ分析や生成AIツールを意思決定に活用していたことが現地メディアで伝えられた。ハバロフスク遠征時のチームマネジメントを巡り混乱が生じたとも報じられ、選手側の不満が高まったとされる。また、補強面でもAIの提案を参考にした可能性が取り沙汰され、獲得した元カザフスタン代表FWアルトゥール・シュシェナチェフはリーグ戦10試合無得点に終わった。
2026年1月、元スポーツディレクターのアンドレイ・オルロフ氏は当時を振り返り、「データやAIツールの扱い方がチーム内の軋轢を生んだ」と証言したと伝えられている。成績不振の原因を単純にAIへ帰することはできないが、この事例はテクノロジーの導入が選手との信頼関係や統率に影響を及ぼす可能性を示唆している。
2026年W杯は転換点になるか
2026年W杯は、AI技術が本格的に存在感を示す大会になる可能性がある。FIFAとレノボが共同開発した生成AIアシスタント「Football AI Pro」は、出場48チーム全選手の3Dアバター生成、判定支援の高度化、ファン向け没入体験の提供などを掲げている。
1月7日の発表では、元名古屋グランパスおよびアーセナル監督で、現在はFIFAのグローバルフットボールデベロップメントチーフを務めるアーセン・ベンゲル氏も「AIがゲームを変革する可能性がある」と言及した。大会運営からファンエンゲージメントまで、生成AIが競技環境をより高度化することが期待されている。
ただし、異論もある。野球界では、松井秀喜氏がイチロー氏との対談で、試合中にタブレット端末のデータを確認し続ける打者の姿に違和感を覚えると語った。イチロー氏も「ストレスが溜まる」と同意し、データ重視の風潮が人間味を薄めているのではないかとの懸念を示した。大谷翔平のようなスター選手も例外ではなく、競技を問わず「データ漬け」の現状に対する議論は広がっている。
生成AIはサッカー界に新たな可能性をもたらす一方、使い方を誤れば創造性や主体性を損なうリスクもある。重要なのは、AIを意思決定の代替者とするのではなく、あくまで補助ツールとして位置づけることだ。テクノロジーと人間の役割をどう設計するのか。その答えが、次世代の“AIサッカー”の形を決めることになる。
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