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観客急病時に試合を中断する理由とは?Jリーグと欧州の安全基準を解説

RB大宮アルディージャ対水戸ホーリーホックでのアクシデント 写真:Getty Images

救護活動を円滑に

試合中断が必要とされる最大の理由は、医療スタッフが安全かつ迅速に処置を行うためである。観客席で発生する急病の多くは心臓関連のトラブルであり、初期対応の成否が生命維持に直結する。救命活動では、処置スペースの確保と周囲の状況が見通せる環境づくりが何よりも重要だ。スタッフが観客席に入るための動線や、AEDを使用するためのスペースを確保するには、スタンド周辺の混乱を最小限に抑える必要がある。

スタジアムは本来、歓声やチャントなど大きな音が発生する環境だが、これらの音は救命活動の妨げとなる。現場の医師やスタッフは互いの声を正確に聞き取りながら処置を進める必要があり、周囲の音が大きいとその精度が低下してしまう。こうした理由から試合を一度止め、スタジアム全体を静かにし、医療スタッフの処置環境を確保するための中断が必要とされているのである。

また、現場の状況を選手や審判団が正確に把握できるようにすることも重要である。試合が継続していると、ボールや選手が視界を遮り、スタンドでの緊急事態を適切に判断しにくくなる。スタンドのスタッフと主審が互いに合図を送りやすい状況をつくるためにも、試合中断が求められる。こうして、医療活動が最適な環境で行われるよう、スタジアム全体の協力を得るための手段として試合が止められるのである。


Jリーグ 写真:Getty Images

試合中断が一般化した近年の流れと今後の課題

日本でも、観客の急病による試合中断はここ数年で増加している。海外リーグの基準が参考にされたほか、国内でもスタジアムでの救命成功例や、迅速な対応がファンやメディアから高く評価されるケースが増え、観客の安全を優先する姿勢が明確になった。

Jリーグを含む多くのリーグや大会の安全指針では、観客や選手の生命に関わる緊急事態に備え、医療体制や緊急対応計画の整備が推奨されている。これに基づき、現場では救命措置を優先するために試合を一時中断することが一般的である。主審やスタジアム運営、メディカルチームは組織的に連携して対処する体制が整いつつある。

一方で、すべてのスタジアムが均質な医療体制を持てるわけではないという課題もある。専用スタジアムが増えつつある一方で、地方の陸上競技場や老朽化した施設では動線・視認性・設備の面で制限が多く、救護活動を適切に行う上での環境整備が依然として求められている。また、観客への啓発活動も重要であり、緊急時に周囲の協力を得やすくするための案内・標識・アナウンスの改善など、運営体制全体の質の向上が必要とされている。

観客の急病時に試合を中断するという流れは、国際基準と医療現場の実務に基づき、サッカーの安全対策として確立された。試合はいつでも再開できるが、命は戻らない。だからこそ、サッカー界は観客の生命を最優先し、救護活動が最大限の効果を発揮できるよう試合を止める。この考え方は、今後さらに世界中で強まっていくと考えられる。

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名前:Nao
趣味:サッカー観戦、お酒、子供が所属するサッカークラブの応援
2023年からライターとしての活動を始めました。プライベートでは3人の男児の父親、個人ブログ「FootballAnalysis」を運営しています。サッカーがある日常、特に試合がある日の街の風景やスタジアム周辺の雰囲気が大好きです。多くの人にサッカーの楽しさを知って頂ける記事を書いていきたいと思います。よろしくお願いします!

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