
J1リーグが残り6節となった9月29日、日本サッカー界に激震が走った。J1横浜F・マリノスの株式の約75%を保有する実質上のオーナー企業である日産自動車が、クラブの株式売却について複数の企業に打診していることを、毎日新聞など複数のメディアが報じた。
横浜FMは、J1優勝5回(1995、2003、2004、2019、2022)、天皇杯優勝7回(1983、1985、1988、1989、1991、1992、2013/日産自動車サッカー部時代含む)、ナビスコ杯優勝1回(現ルヴァン杯/2001)を誇る名門クラブである。1972年創設の旧日産自動車サッカー部を源流とし、1993年のJリーグ発足メンバー「オリジナル10」の1つで、鹿島アントラーズとともに1度もJ2降格を経験していない。1998年にはスポンサー撤退による横浜フリューゲルスの吸収合併も経験。名門ゆえに「日産」のイメージが強固に根付いているため、売却交渉は困難を極めるのではないか。
報道では売却先候補として、神奈川県を地盤とする家電量販店「ノジマ」などの名前が挙がり、SNS上では買収を“願望”する声も上がっている。しかし、プロサッカークラブを所有できるほどの規模の会社は一握りであり、その多くは既に他クラブのオーナーやスポンサーになっている。横浜FMのサポーターのみならず、Jリーグファンは事の行方を固唾を飲んで見守っている。
そこで期待したいのは外資系企業の参入だ。参考例としては、2024年8月に外資系企業レッドブルがJ3大宮アルディージャを買収し、「RB大宮アルディージャ」として再編された。大宮は現在、J2昇格1年目でJ1昇格争いを演じ、新サッカースタジアム建設を含む「大宮スーパー・ボールパーク構想」が埼玉県主導で持ち上がるなどし、クラブ経営における新たな取り組みも注目されている。
ここでは、横浜FMの買収に見合う外資系企業をピックアップしたい。

レッドバード・キャピタル・パートナーズ(RedBird Capital Partners)
データやメディア戦略を駆使し日本上陸も?
所有クラブ:ミラン(セリエA/2022年買収)、トゥールーズ(リーグ・アン/2020年買収)
レッドバード・キャピタル・パートナーズ(RedBird Capital Partners)は、2014年に設立されたニューヨーク拠点の投資会社で、運用資産は100億ドル以上にのぼる。消費財、金融サービス、通信、メディア、テクノロジー、スポーツなど幅広い分野に投資しており、近年はサッカー市場で存在感を強めている。
同社の保有クラブには、セリエAのミラン(2022年買収)、リーグ・アンのトゥールーズ(2020年買収)があるほか、リバプールのオーナーであるフェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)の株式10%も取得しており、リバプールにも関与している。
さらに、映画『マネーボール』のモデルとして知られるオークランド・アスレチックスの元GM、ビリー・ビーン氏が副社長に就任しており、アメリカンフットボールリーグのXFLを買収。USFLとの合併による新リーグ(UFL)設立や一部ルール改訂により、よりエキサイティングな試合運営に取り組んでいる。
横浜FMは、歴史とブランド力を持つJ1クラブであり、アジア市場への参入拠点として非常に魅力的な存在だ。レッドバード・キャピタルは、データやメディア戦略を駆使したビジネスモデルの変革を通じて、横浜FMの経営再建と成長に貢献できる可能性があると考えられる。

クロエンケ・スポーツ&エンターテイメント(Kroenke Sports & Entertainment、KSE)
スタジアムへの投資も重視する戦略
所有クラブ:アーセナル(プレミアリーグ/2018年買収)、アーセナル・ウィメン(ウィメンズ・スーパーリーグ/2018年買収)、コロラド・ラピッズ(MLS/2003年買収)
クロエンケ・スポーツ&エンターテイメント(Kroenke Sports & Entertainment、KSE)は、アメリカを拠点とするスポーツ・エンターテインメントの持株会社で、マルチクラブオーナーシップ(MCO)戦略を展開している。
同社の保有クラブには、プレミアリーグのアーセナル(2018年買収)、ウィメンズ・スーパーリーグのアーセナル・ウィメン(2018年買収)、MLSのコロラド・ラピッズ(2003年買収)がある。サッカー関連では、エミレーツ・スタジアムやアーセナルのトレーニングセンターなど、不動産も保有している。
また、NBAのデンバー・ナゲッツ、NHLのコロラド・アバランチ、NFLのロサンゼルス・ラムズなど、サッカー以外のプロスポーツチームにも投資。さらに、4つのスタジアム、2つのeスポーツチーム、19の出版社、4つのテレビ局・ラジオ局を保有するなど、スポーツとメディアを組み合わせた多角的事業を行っている。
スタン・クロエンケ会長兼CEOの下、同社の戦略はスタジアムなどの「箱物」への投資も重視している。これを踏まえた上で、同社が横浜FMを買収した場合、エミレーツ・スタジアムなどで培ったスタジアム運営ノウハウを活用し、スタジアムを核とした収益最大化を図れる可能性があるだろう。また、日本というアジア有数のメディア市場への参入拠点として、横浜FMへの投資を検討する可能性もあると考えられる。

パシフィック・メディア・グループ(Pacific Media Group、PMG)
投資意欲は旺盛だが批判も…
所有クラブ:バーンズリー(イングランド3部/2017年買収)、トゥーン(スイス1部/2019年買収)、KVオーステンデ(ベルギー2部/2020年買収)、ナンシー=ロレーヌ(フランス2部/2021年買収)、エスビャウ(デンマーク1部/2021年買収)、デン・ボス(オランダ2部/2021年買収)、カイザースラウテルン(ドイツ2部/2022年買収)
パシフィック・メディア・グループ(Pacific Media Group、PMG)は、中国系アメリカ人のチェン・リー氏とアメリカ人のポール・コンウェイが中心となって設立した投資会社である。
同社は当初、アジア向けエンタメ領域(中国向けアニメ、ビデオゲーム、マーチャンダイジングなど)に投資していたが、徐々にサッカービジネスのポテンシャルを認識し、スポーツ投資を重視する方向にシフトした。プレミアリーグ参入を最大の目標と位置づけ、2017年にバーンズリー(イングランド3部)株式80%を取得。その後の2年半でさらに6つのクラブを買収した。
経営方針には、「データや数字を駆使した効率的経営」「スカウティングやトレーニングデータ重視」「前線からのハイプレス戦術」「アカデミーや若手選手への投資」といった明確なビジョンがある。一方で、傘下クラブが下部リーグに多く属しているため、結果がなかなか出ず、サポーターからの批判が一部で出ているのも事実である。
横浜FMの買収候補としてPMGを考える場合、彼らの「データ重視・効率経営」の戦略がクラブの成長にどう寄与するかが注目されるだろう。
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