
W杯でのサブスク独占配信はファン離れに?
実際、2022年のカタールW杯では、FIFAが提示した約300億円とされる放映権料に対し、日本のテレビ各局が二の足を踏む中、ABEMAが総額約200億円前後の放映権契約を取得し、残り約50~60億円をフジテレビとテレビ朝日で折半。結果、ABEMAが全64試合を無料配信し、日本代表戦の地上波テレビ中継も何とか可能となった。
しかし既に、2026年北中米W杯においてはサブスクによる独占中継が予測されている。日本代表のアジア予選でのアウェイ戦はDAZNが独占配信しており、その兆候が見え始めている。仮にNetflixやDAZNが放映権獲得争いに参入すれば、日本のテレビ局では太刀打ちできない事態となり、サブスク配信のみとなる可能性は高い。
常日頃Jリーグや欧州サッカーをチェックしているファンであれば、DAZNやU-NEXT、WOWOWなどと契約し、サブスク慣れしている側面があるものの、W杯はそうした視聴層以外の人をも巻き込みサッカーファンを増やすチャンスでもある。W杯でのサブスク独占配信が、ファン離れに繋がるのは自明の理だ。
五輪も同様の道を辿りそうだ。IOC(国際オリンピック委員会)は、放送権を最大の収入源としており、2024年パリ五輪ではストリーミング視聴が過去最高を記録した。NBC Universal子会社のストリーミングサービスPeacockで成功し、視聴者数は前回東京五輪の2倍以上となった。
2025年3月、NBCを傘下に置くアメリカのメディア大手コムキャストは、IOCと2036年までの権利延長を発表。総額30億ドル(約4,400億円)の超大型契約を結び、ストリーミングを含む全プラットフォームをカバーすることになっている(出典:日本経済新聞電子版)。これは、五輪中継のデジタル移行を象徴し、IOCは戦略的パートナーシップと称している。
日本では、NHKが伝統的に中核を担ってきたが、権利料の高騰によって民放テレビ局の撤退が相次いでいる。2028年ロス五輪ではストリーミングが主力となり、無料地上波放送の縮小が加速する可能性が高いのではないだろうか。

「今だけ、金だけ、自分だけ」
ストリーミング各社の資金力が民間放送局を上回っている点、特に若年層の視聴習慣がデジタル・サブスク中心に変化している点、権利入札がグローバル化している点、以上の3点から、主要スポーツ中継が「サブスク配信のみ」の時代が近付いているのは明らかだ。
一方で反発も予想される。無料放送の喪失はスポーツの社会的役割を損ない、高齢者や低所得層の観戦機会を奪う可能性がある。欧州では「ユニバーサルアクセス権(UA権=国民が関心を持つスポーツイベントを無料で見られるようにする制度)」の観点から公的資金注入が議論されているが、日本でも同様の主張が生まれ始めている。しかしながら現実的に、民間企業に過ぎない放送局に公的資金を投じることについては、納税者の理解を得るのが難しいだろう。
ファンとしては、スポーツの多様な視聴環境を確保しつつ、国を挙げて盛り上がる日本代表戦は「無料地上波中継」を求めたいところだ。それも不可能となれば、4年に1度のW杯でしかサッカーを見ない、いわゆる“ニワカ層”すら生まれないことになり、ゆくゆくは市場そのものの縮小に繋がる。ストリーミング各社も、視聴料を払ってスポーツ観戦を楽しむ“マニア”を取り込むばかりでは、将来的な市場の成長は見込めないことを肝に銘じておくべきだろう。
東京大学の鈴木宣弘教授は著書の中で、目先の短期的利益を優先し、将来の責任や社会への配慮を欠いた刹那的な考え方を批判的に表した言葉として、「今だけ、金だけ、自分だけ」と述べたが、主要スポーツ中継を取り巻く環境にもそのまま当てはまると思えてならない。
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