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福山シティの新スタジアム建設構想はアドバルーンか現実的な計画か

海外で建築中のスタジアム 写真:Getty Images

広島県福山市を拠点とし、中国サッカーリーグ(事実上5部相当)に属する福山シティFCが、2027年秋の完成を目指した新スタジアム建設計画を7月3日に発表した。

Jリーグ参入を目指す福山シティは、J2基準の9,000~10,000人収容、将来的にはJ1基準の15,000人収容可能なスタジアムを、民間資金を活用して約40億円で建設する構想を掲げている。クラブ公式X上では新スタジアム構想図も公開され、そのイメージ図は全席屋根付きの素晴らしいもの。J1から数えて5部にあたるクラブの突然の発表は、Jリーグファンをもザワつかせた。

しかしこの夢のようなプランを、眉に唾を付けながら聞く向きも存在している。計画では建設費は約40億円(税別)とされ、完成予定まであと2年ほどしかない。具体的な建設地も「福山市内の候補地を複数想定、調整中」とされている。

ここでは、福山シティ新スタジアム建設計画について、資金調達、立地の課題、建設スケジュール、クラブの経営状況、国内の先行事例を基に検証し、計画が現実的なものか、あるいは単なるPR的な“アドバルーン”に過ぎないのかを考察したい。


福山シティの新スタジアム構想

福山シティの新スタジアム構想は、地域活性化やコミュニティ創生を目的とした「福山市スポーツ&ウェルネスパーク構想」の一環と位置付けられ、単なるサッカースタジアム建設を超えた街作りプロジェクトだ。スタジアムを街作りの核と位置付け、地域住民がスポーツや健康活動に親しめる場を提供することを目指している。

2023年に完成した練習場兼市民運動場「エヴォルヴィンフットボールフィールド」は、一般利用を可能とし、地域コミュニティの活性化に寄与している。新スタジアムも同様に、市民が集う施設として計画されており、福山市の「スポーツ推進計画」との連携も強調されている。

代表の岡本佳大氏が新スタジアムの構想を初めて口にしたのは、1月14日に行われた2025シーズン新体制発表会見の席上でのこと。「計画といいますか、まだ目標段階ではございますけども、2026年度中には着工し、J3初年度2027年シーズンのJ3開幕には間に合わせたいなという心意気ではいます」と語っている。同時に、クラブは新スタジアムを建設するために4年前から動いていることも明らかにした。

7月3日に開催された設立10周年記念パーティーにおいて、改めて岡本代表は約400社以上にも上る来賓のスポンサー企業を前に「ホームタウンである福山市にフットボールスタジアムを新設したい」と述べた。計画では資金は民間から調達し、福山市の行政や民間地権者との交渉を進める予定としている。

サッカースタジアム新設によって地域の活性化や、試合のない日には市民に開放し健康増進の拠点としての役割を担おうとする志は良しとしよう。しかし、具体的な建設地の選定や資金調達の詳細は未公表のままで、あまりにも計画の具体性に欠けているとは言えないだろうか。


民間資金40億円の調達可能性は?

以下は、福山シティがクラブ公式サイトで公開している新スタジアム建設に向けての考えだ。

Q:スタジアムの建設候補地は?
A:候補地はホームタウンである福山市内の自治体及び民間の遊休地を模索中です。

Q:竣工予定時期は?
A:最短でのJリーグ参入(2025シーズン:JFL・2027-2028シーズン:J3)を目標にしているので、2027年秋の竣工を目標にしています。

Q:スタジアムの建設費用は?また、どのように捻出する?
A:建設費は40億円(税抜)想定で、民間による資金調達を検討しています。

Q:なぜ、このタイミングでの発表?
A:構想自体は5年前からあったものの、Jリーグへの参入が見えてきたタイミングであること、そしてクラブ創設10周年記念パーティーにて福山シティファミリーの皆さまが一堂に会する絶好の機会であったことを踏まえ、最も意義のあるタイミングでの発表を決断いたしました。

(クラブ公式サイトより抜粋)

ここでも、40億円の建設費を全額民間資金で賄うと断言している。2023年度のクラブ運営法人(隆旗株式会社および一般社団法人福山シティクラブ)の総収益は3億5,700万円、経常利益は4,450万円と堅調な業績を記録している。しかし、40億円という事業規模は年間収益の10倍以上に相当し、短期間での資金調達は容易ではない。


FC今治 サポーター 写真:Getty Images

Jクラブのスタジアム建設費と比較

国内の先行事例としてJクラブのスタジアム建設費を参考にすると、例えばJ2水戸ホーリーホックの新スタジアム計画(15,000席予定)では、建設費が約50億円と試算されていたが資金調達は困難を極め、水戸市からの支援も取り付けられずに計画そのものが宙ぶらりんとなっている状態だ。

一方、FC今治の「アシックス里山スタジアム」(2021年10月26日起工、2023年1月29日開場、総工費約40億円、収容人員5,316人)は、FC今治運営会社「株式会社今治.夢スポーツ」代表取締役を務める元日本代表監督の岡田武史氏の強力なリーダーシップにより、約20億円の民間資金を調達した。

福山シティの約40億円は、収容人数や規模を考慮すると不可能な見積もりと断じることはできないが、使用するのは“5部リーグ”のクラブだ。しかも2年という短期間での資金調達には、スポンサーや投資家の手厚く素早い支援が不可欠だ。

福山シティは、企業版ふるさと納税やSDGs関連プロジェクトを活用した資金調達を進めてきた実績がある。上述の「エヴォルヴィンフットボールフィールド」はクラウドファンディングなども活用し、民間資金によって完成させた。

しかし、スタジアム建設は練習場よりも規模が大きく、資金調達のハードルは高い。現時点で具体的なスポンサーや投資家の名前が公表されていないため、甘く見積もっているのではないかという疑念を持たれても致し方無いだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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