浦和レッズ 女子サッカー

混迷の浦和RL。GK池田、工藤SDのコメントから問題点考察【現地取材】

池田咲紀子 写真:Getty Images

「細かい部分のみんなの理解が浅かった」

堀監督就任後の浦和RLの戦いぶりから筆者が感じたのは、GKや最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)における、各選手の立ち位置の悪さだ。

この問題が如実に表れたのが、昨季のWEリーグ第20節アルビレックス新潟レディース戦における、後半5分の失点シーン。ここでは浦和RLのDF後藤若葉(センターバック)が自陣後方でボールを受けたが、図1のように後藤に寄せた新潟の選手の両斜め後ろに浦和RLの選手が立っていなかったため、パスコースが少ない状況に。中盤の底に立つMF角田楓佳へのパスコースが新潟陣営に塞がれたうえ、後藤とDF遠藤(右サイドバック)の距離も開いていたため、中盤から降りてきたMF塩越へのリスキーな縦パスしか選択肢が残されていなかった。

(図1)新潟戦の失点シーン。後藤に寄せる新潟の選手の両斜め後ろに立ちたかった

後藤から塩越への縦パスがずれたことで、新潟が敵陣でボールを回収。ここから始まった速攻を、新潟MF滝川結女が得点に結びつけている。この1点が浦和RLの選手たちに重くのしかかり、同クラブは最終スコア0-1で敗れた。

パスコースを常に2つ以上確保するには、ボール保持者に最も近い相手選手の“両斜め後ろ”に味方が立つことが必要になってくる。前述の場面では、センターバック後藤にプレスをかける新潟の選手の両斜め後ろに、浦和RLの選手が立ちたかった。

GK池田は6月28日のトレーニング終了後に、筆者の質問に回答。[4-1-4-1]の初期配置からどのように隊形変化し、パスを回すのか。これを選手間で意思統一できなかった点を課題に挙げた。

昨シーズンの終盤3試合についてお伺いします。選手一人ひとりはベストを尽くしているように見えましたが、残念ながら結果が伴いませんでした。ピッチ内でどんな問題が起きていたのか。池田選手の見解を教えてほしいです。

「監督に提示されたものを表現したい気持ちは、みんなにありました。それを自分たちの物にしきれなかった部分が大きかったですね。(取り組むべきサッカーの)大枠はありましたけど、細かい部分のみんなの理解が浅かったりもしました。ベースとなるサッカーはありながらも、それが上手くいかないときに自分たちで話し合って修正する力をもっと出せたら良かったと思います」

ー池田選手が思う(解釈している)、堀監督のサッカーの大枠とは何でしょうか。

「自分の感覚ではゴールに直結するプレー、『これができれば相手ゴールまで簡単に進めるよね』と、ゴールまでの最短(ルート)がベースにあります。相手が前から来たとき(前線から守備を仕掛けてきたとき)にそれを剥がす場面もありますけど、できれば(ロングパス)一発で相手ゴールまで行く。『これができれば超楽しいだろうな』という、ゴールに直結するサッカーが根底にありますね」

ー(GKや最終ラインから丁寧にパスを)繋ぐことにはそこまでこだわっていない感じでしょうか。

「後ろからのビルドアップについても、場合によっては形(隊形変化)があるんですけど、そこまで多くを求められていません。最終ラインの選手というよりかは、その一列前の中盤の選手の立ち位置が重要ですね。それに対して、自分が後ろと前のどちらを選ぶか(最終ラインと前線のどちらへ配球するか)を常に考える感じですね。『隙があれば、どんどん前に配球していい』と監督から言われているので、そういう解釈を私はしています」

ーそれができるとき(ロングパス1本で局面を打開できるとき)は困らないと思いますけど、レッズレディースにとって問題なのは、パスを繋がざるを得ない状況ですよね。

「そうですね。相手チームが前から来なくて(前線から守備を仕掛けずに自陣のスペースを埋めてきて)、自分たちでボールを前進させなきゃいけないときに、最終ラインの選手たちがどうすればいいか分からない状況が昨シーズンは多かったです。結局前進できず(GKの)私にボールが返ってきてしまい、自分がロングボールを蹴るしかなくなることも多かったですね。そこは課題だと思います」

ーロングボールを蹴るにしても、『誰にそしてどこへ』送るのかを明確にしないといけませんよね。後ろからパスを繋ぐにしても、センターバックやボランチ、サイドバックの立ち位置が重要だと思います。特に昨シーズンの終盤3試合では、そこがまとまらなかった感じですかね。

「そうですね。立ち位置もそうですし、頭を整理できていなかった。そのなかでも(監督からの)要求はあるので、特に(DF石川)璃音はすごく悩んでいましたし、パスの出し先を探していましたね。センターバックがパスコースを探す時間が長くて、(GKの自分が)後ろから見ていても苦しかったです。助けてあげたいけど、自分も味方へ声をかけることができなかったですし、(パスワークに)うまく関われなかった。もどかしい時間は長かったですね」

ーセンターバックがボールを保持したときに、そこへ寄せる相手選手の斜め後ろに浦和の選手が立つのが重要だと、試合を拝見して感じました。(最終ラインの前に)MF角田楓佳選手しかおらず、そこへのパスコースを潰されてサイドへパスを散らすしかない状況が、特に新潟戦は多かったですね。池田選手はどう思いますか。

「今まで(楠瀬前監督時代)のベース布陣は[4-2-3-1]で、ボランチが2人いるのが当たり前だったんですけど、昨シーズン終盤はその感覚のままやってしまった感じがあります。楓佳がとても頑張ってくれましたけど、彼女の負担は重かったと思います。楓佳ひとりでは解決できないことなので、これを最終ライン(4バック)の立ち位置で解決するのか、それとも中盤の選手に降りてきてもらうのか。こうした部分を修正する力が、昨シーズンの自分たちには無かったと思います」

ー基本布陣[4-1-4-1]の2インサイドハーフ、塩越選手とMF伊藤美紀選手の負担も大きかったですよね。最終ラインの手前へ降りながらパスを受けようとすると、ミスが起きやすい。新潟戦の失点も、センターバックの後藤選手からインサイドハーフ塩越選手へのパスがずれたところから喫してしまいました。

「確かに、2人が受けても以前ほど効果的にボールを運べる場面が少なかったですね。フォーメーション(初期配置)のことは決められているので難しいですけど、臨機応変にできなかったのは自分たちの力不足だと思います。塩越選手と伊藤選手に任せっきりになっていましたし、ワイドの選手も張りっぱなし(サイドバックやサイドハーフがタッチライン際に立ったまま)になっていました。ポジションが近い選手同士で助け合うべきでしたけど、そこまでの余裕も無かったですし、理解度も足りなかったと思います」


浦和レッズレディース サポーター 写真提供:WEリーグ

「大枠の提示は終了している」

6月28日のトレーニング終了後、工藤SDも筆者の質問に回答。基本布陣[4-1-4-1]からどのように隊形変化し、攻撃を繰り出すか。この点の重要性はGK池田と同じく認識しているようだ。

ー昨シーズンのラスト3試合のパフォーマンスはどのように感じましたか。また、それを受けて新シーズンに向けて突き詰めていかなければいけない戦術的な課題はなんだとお考えでしょうか。

「リーグは勝ち点3の積み重ねなので、どれかのゲームが決定的にということはないと思います。一方で、シーズンの流れはありますよね。昨シーズンで言うと、まずは前半戦で勝ち点を逃した試合は非常に大きかったと思っています。それが結果的にギリギリな状況になり、勝ち点を競う状況になった。そのときには、おそらく過去に経験したことがないくらいメンタル的に追い込まれる状況の中で試合を迎えなければいけませんでした」

「その前のシーズンでは、最初にINAC神戸レオネッサさんが優勝したときも、ウチが優勝したときもそうですけど、最後のほうで何節も1位で走るんですよね。その前にみんなが勝ち点を落としていってトップが走ると。最後の最後まで上3つくらいで競うのは初めてのシーズンだったと思いますし、その意味でターニングポイントになったのは、日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦とアルビレックス新潟レディース戦は外せなくなってくると思います。新潟戦はまわりの結果も含めて、勝っていれば首位だったということもありましたし、その結果が最終的なメンタルの維持の部分でパフォーマンスにつながったのかなと思っています」

「そういうときに違いを出せる選手、違いを生める状況に、クラブの我々自身もそうですし、選手もコーチングスタッフも、そこにまだ伸びしろがあるんじゃないかと思っています。なのでそこにチャレンジしましょうというのが今シーズンになります」

ー堀監督のサッカーの大枠は見えてきていますが、細かい部分のすり合わせが間に合わなくて勝ち点を積めなかった印象がありました。

「おっしゃる通りだと思います。昨シーズンで堀監督にやっていただいて、大枠の提示は終了しているところもあると思うので、今シーズンはキャンプなど事前に準備もありますし、そこからどういうふうに変化をつけていくかというところが大きなテーマになります。たとえばポジショニングにしても、スタートポジションのところはみんな理解している。そこからどうやって変化していくんだというところです。秩序と自由をどうバランスを持ってピッチ上で表現できるかというところがカギになると思っています」

楠瀬前監督時代の勝ち点取りこぼしが、昨シーズン終盤の選手心理の乱れに繫がったことを想起させる工藤SDの言動に、筆者は違和感を覚えた。

昨シーズン終盤3試合の失速でWEリーグ3連覇を逃した事実のみならず、攻撃配置の不具合を堀監督が修正できなかった点も踏まえると、楠瀬監督の解任を断行したクラブ首脳の判断は誤りだったと言える。WEリーグ3連覇の可能性が十分に残されていた状況下での監督交代に、合理的な理由は見当たらない。優勝争いの最中(さなか)監督交代が行われたことへの動揺が、選手のパフォーマンスや士気に悪影響を及ぼしたのは明白だ。

工藤SDによる前述のコメントは浦和RL公式サイトにも掲載されており、同氏の言動への不快感が多くの浦和サポーターによってSNSに綴られている。同クラブは6月20日にクラブ公式サイトを通じ、「浦和レッズというクラブは、勝敗や成績と真摯に向き合う中でも、誰か一人に責任を集中させるのではなく、組織としての課題を共有し、乗り越えることで、より強いチームを築いていくことを大切にしています」と発信。「今後は、みなさまに正しく伝わる、丁寧で誠実な発信を徹底し、クラブとファン・サポーターのみなさまとの信頼関係をより一層強く築いてまいります」とも宣言している。この宣言内容と矛盾するコメントが工藤SDから発せられたことで、浦和サポーターからの信頼回復が非常に困難な状況となってしまった。サポーターとの一体感を醸成するために、クラブとして何を発信すべきか。工藤SDを含め、浦和RLの首脳陣はこの点を省みる必要がある。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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