Jリーグ 松本山雅

積雪中止の信州ダービー、苦渋の決断を読み解く。Jの対応は適切なのか

松本山雅 サポーター 写真:Getty Images

3月16日に、サンプロアルウィン(松本市)で開催される予定だった明治安田J3リーグ第5節、松本山雅対長野パルセイロの試合(信州ダービー)が、雪で中止となった。

当日、ホームの松本は公式サイトで「積雪の影響によりお客様や試合運営関係者の移動及び試合観戦時の安全確保が困難なため、試合を中止することを決定しました」と経緯を説明。また、購入済みのチケットの取扱いについては、後日の案内まで大切に保管するよう呼びかけている。

J3きっての好カードであり、松本にとっては“ドル箱”でもある信州ダービーを中止順延する決断は相当に重いものだったと思い至る。しかし、前日から降り続ける雪が積もり、X上に投稿された写真では道路も圧雪状態。車での来場にも危険が伴うことを伺わせた。

ここでは、松本が信州ダービー中止の決断をするまでの経緯をまとめると共に、改めてJリーグの雪クラブへの対応について考える。


松本山雅 写真:Getty Images

第一報は、当日午前8時24分

松本が試合中止の第一報を公式Xで発したのは、信州ダービー当日の午前8時24分。長野サポーターのみならず、県外からの来場者のことも考慮し、早めの発表に至ったものと思われる。

松本市は前線を伴った低気圧の影響で前日15日から降雪が続き、当日午前10時までの12時間降雪量は6センチを記録。当然ながらスタジアムは一面の雪景色で、市内も雪に覆われ、一般市民も雪かきに追われるほどだった。松本市は3月上旬は晴天が多く、気温も最高13度を記録する日もあるなど春の到来を予感させていたが、試合日を狙い撃ちしたかのように豪雪が松本市内を襲った。松本の運営はさぞや天を恨んだだろう。

お天道様は意地悪なもので、試合開始予定の午後2時には雪は止んだ。SNS上では「やろうと思えばやれたのでは?」という声も聞かれたが、これは練習試合ではない。チケット代金を支払った観客あってこそのスポーツ興行であり、しかも長野県のサッカーファンにとっては年2度しかない重要なダービーマッチで、しかもホーム開幕戦だ。サポーターにとっても、より良い環境下で試合が開催された方が望ましいのではないか。松本の運営責任者は相当逡巡しただろうが、その決断を尊重したい。

一方、同じく中止となった福島ユナイテッド対アスルクラロ沼津(とうほうみんなのスタジアム/14:00キックオフ予定)の発表は、スタメン発表後の12時32分だった。

これに対し、既に現地に到着していたと思われるファンからは、SNS上で「発表が遅すぎる」と怒りのコメントが寄せられたが、相手は自然現象だ。わざわざ足を運んだファンや、はるばる駆け付けた沼津サポーターにとっては気の毒としか言いようがないが、誰のせいでもない中止決定とも言えよう。


Jリーグ 写真:Getty Images

前日の16時55分頃にも情報発信

前日15日からサンプロアルウィン周辺でも雪が積もり始め、試合運営や観客の安全確保に懸念が生じると判断した運営側は、前日の16時55分頃、公式HPに加えJリーグ公式HPでも「中止となる可能性が高まった」と情報発信している。松本の運営担当は空を見上げながら、眠れない夜を過ごしたことだろう。

そして試合当日の16日の朝、運営側がサンプロアルウィンでの積雪状況を確認した結果、ピッチコンディションの確保、観客や関係者の移動の安全確保、試合運営の困難であると判断し、中止を決断した。

松本も福島も、お彼岸も近い3月中旬になってこのような豪雪に見舞われることは想定外だっただろう。この事態に秋春制導入反対派は早速「こんなことで大丈夫か」とSNS上で声を上げている。

今冬がウン十年に一度レベルの異常気象であるとはいえ、ただでさえ雪国クラブは本拠地で練習することもできないまま、アウェイ戦が続く序盤戦を戦わされている。この時点で「リーグ戦の公平性」が大きく損なわれていると言ってもいいだろう。

欧州5大リーグ、およびAFC(アジアサッカー連盟)の方針に沿うために導入に至ったJリーグの秋春制(2026/27シーズンから移行)。しかし、スタジアムや練習場にヒーティングシステムを付けることが現実的でない上、観客の来場にも危険が伴うとなれば、リーグ側も一度立ち止まって再考する必要があるのではないだろうか。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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