
Jリーグが参考にすべきエスコンフィールドの成功
前沢氏はベイスターズ時代から、横浜スタジアムを単なる球場ではなく「エンターテインメント空間」として再定義する手腕を発揮した。観客席の改修や飲食の充実を図り、観戦体験を向上させ、観客動員数の増加に繋げた。
エスコンフィールドでは、さらに大胆なビジョンを提示し、開閉式屋根付きの球場、グラウンドに近い観客席(ファールゾーンが狭すぎてNPB野球規則違反を指摘されたほど)、多目的施設の併設など、従来の野球場の常識を覆す設計で、2023年の開業初年度に346万人もの来場者を記録した。
野球ファンだけでなく、観光客や家族連れを取り込むことで、来場者の約3割が道外からの訪問者となるなど、新たな市場を開拓することに成功している。
また、試合がない日でも楽しめる施設設計を実現させ、「北海道ボールパークFビレッジ」として地域活性化や観光振興に貢献。行政や企業との協力も強化し、前述したように北広島市の地価上昇という“副産物”も生み出した。
これらは、前沢氏が「観客が主役」という哲学を持ち、従来のスポーツ観戦の枠を超えた付加価値の創造に注力した結果だ。エスコンフィールドのように、試合日以外も活用できる施設やイベントを企画し、スタジアムを地域のランドマークに変えたのだ。
この試みはJリーグも大いに参考にすべきで、飲食店の充実、キッズエリアの設置、コンサートや地域イベントを開催するにより「サッカーを見に行く」以外の動機を創出できるだろう。
また、熱心なサポーターだけでなく、ライトファンや家族連れが気軽に楽しめる雰囲気作りも重要だ。応援を強制されない“まったりエリア”とも呼べるような観客席の配置、バラエティーに富んだ飲食店の誘致、初心者向けのガイドやイベントなど、初めての人でも疎外感を感じない工夫が必要だろう。
実際、J2のV・ファーレン長崎の新本拠地「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」をはじめ、アリーナ・ホテル・商業施設・オフィスからなる大型複合施設「長崎スタジアムシティ」のような、商業施設や地域振興を組み合わせたモデルケースがJのスタンダードとなれば理想的だろう。

「観戦するだけの場所」から「体験の場所」へ
前沢氏の「疎外感」発言は、Jリーグが現状のサポーター中心の運営に依らず、より幅広い観客を取り込む必要性を訴えたものと捉えられる。彼の成功は、球場を「観戦するだけの場所」から「体験の場所」に進化させた。
Jリーグもこの視点を取り入れることで、新たなファン層の開拓と長期的な発展に臨むべきではないだろうか。具体的には、スタジアムの多機能化と包括的なファン体験の設計が鍵となり、これを進めるにはクラブ、サポーター、地域が協力する意識改革も求められる。
こういうことを言うと、数多くのJクラブは「ウチにジャパネットたかた(V・ファーレン長崎のオーナー企業にして長崎スタジアムシティの運営元)の真似はできない」と感じることだろう。
しかし、その長崎とて諫早市の「トランスコスモススタジアム長崎」をホームスタジアムにしていた時代には、駅からのアクセスの悪さを逆手に取り、スタジアムへの道すがらの商店街の協力を取り付け「V・ファーレンロード」と名付けた上で、グルメの無料提供などのサービスを行っていた。要はアイデア次第で様々なファンサービスが可能であることを以前から示しているのだ。
チェアマン時代からとにかく前例主義を忌み嫌い続けた川淵氏にとって、前沢氏のJリーグへの手厳しいダメ出しは相当耳の痛い話だったに違いない。しかしながら、Jリーグが次のステージに進み、「エンターテインメント」になるための貴重な示唆に満ちていると言えるのではないだろうか。
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