Jリーグ

J3で日当5万円。Jリーグ審判員の質はこの待遇で上がるのか

プレミアリーグ 写真:Getty Images

世界の審判員の給与事情を比較すると…

2025シーズンのJリーグの登録審判員は主審56人、副審97人だが、そのほとんどは主たる職業を別に持ち、副業として審判員を務めている。プロフェッショナルレフェリー以外の審判員全てがこれに当たるといっていいだろう。例えJ1の主審だとしても、年間30試合を担当したとして、審判員としての年収は約360万円程度だ。

もちろん野々村氏もこの現状を良しとしているわけではないのだが、その原資に苦しんでいるのが現状だ。2024年度は約11億7,000円の赤字予算を組み、決算では約5億7,000円の黒字見通しとなったが、2025年度は再び15億1,000億円の赤字予算を組んだ。

Jリーグは公益社団法人であるため黒字予算を組みにくいという特殊な事情があり、結果的には近年は黒字が続いているのだが、経常総費用約343億3,800万円のうち、メディア露出のためのPR費用などで18億4,000億円、クラブへの配分金を5億4,000万円増やす一方で、これまでは審判員育成のための予算は据え置かれ続けてきた。今季になってやっと審判員育成に多くの予算を付け、本腰を入れ始めたようだ。それでも全ての審判員が本業として審判を務め、生活できる報酬を得るまでには至らないだろう。

海外ではどうか。イングランドのプレミアリーグの審判員は、その経験や能力に応じ、14万7,258ポンド(約2,811万円)、10万5,257ポンド(約2,009万円)、7万3,191ポンド(約1,397万円)と4つのランクの変動制の固定給があり、1試合1,116ポンド(約21万円)、VAR審判員でも837ポンド(約16万円)の追加報酬を得られ、加えて、判定の質や重要な試合でどれだけ正確に裁けたかによるボーナスも加算される。

スペインのラ・リーガの主審は、固定給14万8,621ユーロ(約2,389万円)に、1試合5,029ユーロ(約80万円)、VAR審判員は2,514ユーロ(約40万円)の追加報酬が加算され、また、ラ・リーガの審判員は広告の入ったシャツを着用するため、年間2万6,229ユーロ(約421万円)の追加報酬も支払われるという。

報酬面だけで言えば、Jリーグの主審はプレミアリーグやラ・リーガのVAR審判員にも及ばないのだ。

現在、最も勢いのあるリーグの1つであるメジャーリーグサッカー(MLS)の審判員はストライキで好待遇を勝ち取り、新労働協約では、最低でも約15万ドル(約2,327万円)の固定給と1試合あたり1,500ドル(約23万円)の追加報酬があり、ベテランクラスの主審に対しては、6か月分の退職金も支給されるという。

イタリアのセリエAやフランスのリーグアン、ドイツのブンデスリーガも、円換算で1,200万~1,400万円の固定給と試合ごとに50万~60万円の報酬が発生し、退職金制度も充実している。現実的に審判員だけで食っていけるに足りる報酬だ(それでも別に仕事を持っている副業審判員はいるのだが)。例外を挙げると、セミプロ審判員を採用しているポルトガルリーグでも平均年収は約430万円だ。

また、“金満リーグ”として世界を席巻しているサウジ・プロフェッショナルリーグは、プレミアリーグのトップ審判員マイケル・オリバー氏に、たった1試合で3,000ポンド(約57万7,000円)の報酬とビジネスクラスの航空券を提供。これはプレミアリーグの倍以上にあたる金額で、その後、他の英国人審判も続くようになったことでクラブやサポーターから批判され、この試みは終わりを告げた。


Jリーグ 写真:Getty Images

審判員の待遇改善は日本サッカーの発展へ

もちろん、報酬さえ上げれば審判員のレベルが劇的に向上するわけではない。しかし、フィジカル的にもメンタル的にもタフさが求められる仕事の対価としてみれば、Jリーグにおける報酬は少な過ぎるといえよう。

昨2024シーズンの天皇杯2回戦で、日本唯一のサッカー専門学校「JAPANサッカーカレッジ」がJ1名古屋グランパスを下し、ジャイアントキリングを成し遂げたことで話題となった。同校では選手のみならず、審判員も育成している。いまや、選手としてプロを目指すのではなく、審判員を志す若者も増えてきている。日本サッカー界にとっては非常にポジティブな流れとなっているが、その夢の先が年収360万円では、「やりがい搾取」といわれても致し方ないだろう。

何も全ての審判員の年収を1,000万円以上にせよとまでは言わない。しかしJリーグがプロの興行である以上、選手はもちろん、審判員もプロであることが求められているのではないだろうか。

せめて、審判員だけで食べていけるだけの報酬を設定さえすれば、審判員を志す若者が増え、そこに競争が生まれ、自ずとジャッジの質も上がっていくのではないだろうか。また、前述の御厨氏のように引退した選手のセカンドキャリアとして審判員を目指すケースも増えていく可能性もあるだろう。

現状、日本の審判員は、基本的なスキル、判定基準、一貫性といった面で、アジアトップクラスとの評価を受けている。しかし、他のアジア諸国が急激にレベルアップしているのも事実だ。

だからこそ、若い審判員がJリーグ、あるいは国際試合の経験を数多く踏むことによってレベルアップすれば、必ずや日本サッカーの発展に繋がるだろう。審判員の待遇改善は、その入り口となり得るに違いないと思えるのだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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