
日本で急拡大「CAA Base」の代理人ビジネス
日本サッカー界における代理人は「選手から代理人手数料を取る」のが一般的である。相場は5~10%で、この金額はキャリアアップのための自己投資と見られてきた。
しかし、この慣習を覆す“黒船”が日本へ乗り込んできた。イギリス・ロンドンに本社を置く「CAA Base」だ。日本担当の代理人、富永雄輔氏の本業は、幼稚園生から高校生、浪人生まで受け入れる「進学塾VAMOS(バモス)」の代表取締役だ。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に同社を設立。入塾テストを行わないにも関わらず毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇り、授業のみならず教育相談、受験コンサルティングにも対応している。
「CAA Base」のビジネスモデルは、「代理人が選手から手数料は取らずに、その代わりとしてクラブから直接手数料を支払ってもらう」というものだ。選手にとっては、毎年払っていた手数料が無料になるのだから話題にならないはずはない。
現在、日本代表DF板倉滉(ボルシアMG)、日本代表DF町田浩樹(ユニオン・サン=ジロワーズ)、元U-20日本代表MF藤本寛也(ジル・ヴィセンテ)などが契約しており、特にアンダー年代の有望選手の間で急拡大。数年後には日本で一大勢力になると見られている。
同社は指導者やクラブの強化担当への接待を禁止し、その細かいコンプライアンス意識が選手や保護者から信頼を得る要因になっている。コンプライアンスへのこだわりは、「CAA Base」の親会社「CAA」が、ウィル・スミス、ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニーら多くの映画俳優を抱えるハリウッド最大手の芸能事務所だったことも関係していると思われる。
一方で、契約に関してはシビアで、欧州移籍できそうな優秀な選手としか契約しない。よって、選手の将来性の見極めが鍵となる。その目利きを代理人だけに頼ることはせずに、本社にスカウトやアナリストなど専門家が常駐し、彼らが映像やデータを見て厳しく査定している。契約選手が他の好選手を紹介したとしても、契約に至らないケースも多いようだ。

代理人を選択する日本代表選手たち
しかし、そんな「CAA Base」にも弱点が存在する。ドイツ市場に弱く、かつてブンデスリーガにおいて数多くの日本人選手を手掛けていた敏腕代理人トーマス・クロート氏のようなコネクションを築けていないようだ。
ドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフから移籍を希望していた日本代表MF田中碧は、なかなか進まない移籍交渉にしびれを切らし、代理人を「CAA Base」から「Sports360」に変更。それが奏功し、2024/25シーズンからイングランド2部(EFLチャンピオンシップ)のリーズ・ユナイテッドに移籍した。2部ながらも念願の英国上陸を果たし、チームの3季ぶりのプレミアリーグ復帰へ向け、首位快走の原動力となっている。
また逆に、日本代表MF守田英正は、現在所属するスポルティングCP(ポルトガル)からのステップアップを目指し、元日本代表MF本田圭佑の実兄である本田弘幸氏が代表を務める「HEROE」から、今年「CAA Base」に代理人を変更した。
日本代表選手が代理人に頭を下げて、欧州に「移籍させてもらう」時代は終わりを告げ、今や、中途半端な仕事ぶりであれば代理人を切ることにためらいもなくなった。冒頭の岡崎の移籍劇から10年余り。その立場は逆転し、隔世の感すらある。
代理人選びの際にも、各々の得意・不得意分野を見極め、自分のストロングポイントと希望するリーグやチームスタイルを精査し、自らマッチングする能力も求められる時代になったと言えよう。
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