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欧州ユニファイリーグ構想の奇々怪々

UEFAチャンピオンズリーグ 写真:Getty Images

サッカーファンからは一定の支持

しかしながら、サッカー界の不満は3年半前のスーパーリーグ構想時に比べ広まっていない。A22も、ユニファイリーグ構想がUEFAの基準に従っていることを強調している。A22の共同創設者であるジョン・ハーン氏は、現時点においてビッグクラブからの支持が少ないことを認めながらも、「いずれ、ユニファイリーグは認知されていくだろう」と楽観的だ。

イタリアのセリエA・B・C、イングランドのプレミアリーグ、ドイツのブンデスリーガ、フランスのリーグ・アンなど、33か国29リーグの1130以上のクラブを代表する「ヨーロピアン・リーグス」と、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)の欧州支部である「FIFPROヨーロッパ」は、新たな欧州大会の導入に断固反対の姿勢を取っている中、A22の自信はどこから来るものなのか。

ユニファイリーグは、猛批判に晒され頓挫したスーパーリーグ構想の反省から、欧州全土にわたる競争の公平性を担保した上で成果主義を強調している。閉鎖的な構造だったスーパーリーグ構想とは対照的で、オープンで公正なシステムだ。

背景には「サッカーを民主化する」という理念があり、すべてのファンが無料配信で試合を楽しめるようにし広告から収益を生み出すという、従来のビジネスモデルから脱却した新たなビジョンを示している。そして、この計画が欧州のサッカーファンから一定の支持を得られ始めている。洋の東西を問わず「無料」というパワーワードに敵うものはないと感じさせる。

現在、UEFAと放映権を持つ放送局によって、CLなどのコンペティションは既得権益化し、サッカーファンは高額な視聴料を支払うことを余儀なくされている。A22の提案は、この現状に風穴を空けるもので、オペレーション次第では、サッカーから離れつつある若いファンを取り戻す訴求力を帯びている。

英紙『デイリー・テレグラフ』は、「ユニファイは『サッカー界のTikTok』になる可能性を秘めており、ユーザーは無料の試合コンテンツや購読コンテンツ、そして、小売りを利用することになる。A22は、欧州のエリートクラブが他のさまざまな方法で収益化されるデジタル・プラットフォームにユーザーを引き込む入り口だと考えている」と伝え、ユニファイリーグが商業ベースでも実現可能であると指摘した。

サッカーファンの後押しさえ取り付ければ、あとはいかにして“ラスボス”のUEFAを説き伏せるかが焦点となる。前述したECJ判決を盾に、法廷闘争も辞さない構えでコンペティションの譲渡を迫る可能性もある。そして「無料配信」となれば、欧州のみならず日本も含めた世界中のサッカーファンにとっても、一気に身近なサッカーコンテンツとなるのは必至だ。


FIFA 写真:Getty Images

欧州サッカー界を一新するのか

一方で、ヨーロピアン・リーグスは過密日程による選手の健康を守るためとして、FIFPROヨーロッパを取り込んでFIFAを相手取り、EU内の欧州委員会に異議を申し立てている。しかし、選手に過密日程を強いているのはUEFAも同じことだ。こうなるともはや、UEFA、FIFA、A22(ユニファイ)の三つ巴の争いとなり、訳が分からなくなっていく。

現時点ではスペイン3強(レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード)の他には、スーパーリーグ構想でも名前が挙がったプレミアリーグ6クラブ(アーセナル、チェルシー、リバプール、シティ、ユナイテッド、トッテナム)とセリエAの3クラブ(ミラン、インテル、ユベントス)が創設メンバーとなっているユニファイリーグ。

アメリカの投資銀行大手JPモルガン・チェースが50億ドルの資金提供を約束したことで、現行のCL以上の賞金が支払われることになれば、風向きが変わる可能性もあるだろう。

3年半前は“絵空事”として、相手にもされなかったスーパーリーグ構想が、名称と大会方式、多額の賞金、無料配信を武器に、欧州サッカー界を一新するのか。今後の動きに注目したい。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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