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南葛SCは“葛飾区民の誇り”か“夢を食うバク”か

南葛SC 写真:Getty Images

人気に伴わない成績

この頃から南葛SCは元Jリーガーやブラジル人選手など“ビッグネーム路線”をひた走り、中でも元日本代表MF福西崇史を現役復帰した上で加入させたことは、サッカーファンを驚かせた。

やや足踏みした時期もあったが、2020年に「Jリーグ百年構想クラブ」に承認され、翌2021年、1部最下位の桐蔭横浜大学FCとの入れ替え戦に勝利し、ついに関東1部リーグへの昇格を決めた。しかし前述した通り、初出場した全社では2回戦敗退に終わり地域CLへの進出は果たせず、今季に至ってはリーグ戦負け越しに終わっている。

元代表選手の獲得や大物監督の招聘、新スタジアム計画、そこに加えて、川崎のプロモーション部部長として数々の風変わりなイベントを仕掛け続けたことで人気チームに育った南葛SC。東京五輪でもプロモーションに携わった実績のある天野春果氏を、新設されたプロモーション部長のポストを用意して招くなど次々と明るいニュースを届け、葛飾区民のみならず東京23区民にとっても夢を見せてくれるのだが、いかんせん、チームの成績が伴っていないのが現状だ。


大前元紀 写真:Getty Images

南葛SC移籍は事実上の引退?

それもそのはず、監督の風間氏は、これまでと同様に深夜のサッカー中継の解説を務めているし、所属の元代表選手もテレビなどに出演している。

社会人チームであり、ほとんどの選手が他に仕事があるアマチュアであるが故に、全体練習が夜間になってしまうという事情もあるだろう。しかし、クラブの顔であり引っ張るべき存在であるはずの元代表選手が試合にも絡めていない事実を見ると、これらの選手が100%の力でチームにコミットしているとは思えないのだ。

昨2023年には、多くのフォロワーを持つサッカーインフルエンサーが、Twitter(現X)で同年2月に加入した大前を名指しした上で、「南葛SC移籍は事実上の引退」とツイートし炎上(現在は削除)。これに対し、当時現役でこの年限りで引退した同僚FWの長谷川悠が「Jリーグにいた以上に充実した時間を過ごしています」と反論する事態となった。

しかし、Jリーグ、特に清水エスパルス時代(2014-2016)の大前を知るファンなら、現在の彼の丸々とした体型を見れば“事実上の引退”という言葉も、当たらずとも遠からずという印象を与えても致し方無い。この状況を見て、トップである高橋氏とGMの岩本氏は一体何を思うのだろうか。


高橋陽一氏 写真:Getty Images

漫画家を引退した高橋氏

命と同じくらい大事な『キャプテン翼』の版権を岩本氏に預けたが故に、手元には南葛SCしかなくなった高橋氏は、今年、連載の終了を発表し漫画家を引退。現在は鉛筆でのネーム(下書き)のみの執筆に専念している。

一方の岩本氏は、メディア出身だけあってイメージ戦略に長け、周りを惹きつける美辞麗句はお手の物だが、GMとしての役割を果たしているのかと問われればその手腕には疑問が残る。かといって、高橋氏にとっては版権を握られている以上、無下に扱うこともできない。

高橋氏は「体力の衰えとデジタル化やコロナ禍」としたが、63歳にして引退を決めた裏には、連載を続けたところでその原稿料が岩本氏および南葛SCに吸い取られる現実に接し、モチベーションを失ったからではないのか。

常に話題先行で思うように強化が進まないチームに加え、フロントを刷新することもできず、八方塞がり状態にあるクラブトップの高橋氏。南葛SCは来季以降どうするのか、そもそもピッチ内外で生まれる問題点を洗い出し、意思決定をするのは誰なのか。

夢を語るのは自由だ。しかし、地域リーグ中位が指定席となりつつあるクラブを応援し続ける奇特なサポーターが、どれだけ存在しいつまで我慢してくれるのかなど分からない。高橋氏と岩本氏は本気でクラブの強化と方向性について考えなければならないだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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