天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会の決勝が12月9日に行われ、川崎フロンターレが柏レイソルにPK戦の末に勝利(0-0、PK8-7)。3大会ぶり2度目の天皇杯優勝を成し遂げている。
柏に攻め込まれる時間があったものの、これを耐え忍んだ川崎F。いかにして試合の均衡を保ち、勝利を手繰り寄せたのか。ここでは国立競技場(東京都新宿区)にて行われた激闘を振り返るとともに、この点について論評する。川崎Fを天皇杯優勝に導いた鬼木達監督の会見コメントも、併せて紹介したい。
川崎Fvs柏:試合展開
45分ハーフの前後半を終えた時点で、スコアは0-0。延長前半9分に、川崎FのGKチョン・ソンリョンが柏のFW細谷真大との1対1を制したほか、柏のGK松本健太も延長後半13分に相手FWバフェティンビ・ゴミスのヘディングシュートを懸命の横飛びで防ぐ。15分ハーフの延長戦でもスコアは動かず。試合の決着はPK戦に委ねられた。
PK戦も天皇杯の歴史に残る激闘に。後攻の柏の4人目キッカー、MF仙頭啓矢のシュートがポストに嫌われたが、先攻の川崎Fの5人目ゴミスのシュートが松本に防がれる。両チーム5人蹴り合ってPK戦スコア4-4と、ここでも決着がつかなかった。
川崎Fの6人目、DF登里享平のシュートを松本が止めたことで柏は優勝に近づいたが、この直後のDF片山瑛一(柏の6人目)のシュートがクロスバーに当たり勝利を逃してしまう。川崎Fの10人目チョンのシュートがゴールネットに突き刺さり、同じく10人目のキッカー松本のシュートがチョンに防がれたことで、激闘に終止符が打たれた。
巧みだった前半20分までの凌ぎ方
基本布陣[4-4-2]の2トップ、細谷とMF山田康太を起点にハイプレスを仕掛けてきた柏に対し、川崎Fは手始めに最終ラインからのロングパスで局面打開を試みる。基本布陣[4-1-2-3]のセンターFWレアンドロ・ダミアンや、柏の両サイドバック(片山とMF土屋巧)の背後を狙う意図が窺えた。このロングパスはなかなか決定機に繋がらなかったが、自陣での危険なボールロストを防ぐという点では効果的だった。
前半20分頃まで川崎Fはボールを保持できなかったが、この時間を境に隊形変化を駆使し、柏のハイプレスを掻い潜りにかかる。この日も中盤の底を務めたMF橘田健人と、インサイドハーフとして先発したMF瀬古樹が、自陣からのパス回し(ビルドアップ)の際に味方センターバックとサイドバックの間へ降りるように。これにより、細谷と山田のプレスに晒されていた川崎Fの2センターバック、MF山村和也とDF大南拓磨の負担が軽減された。
DF山根視来(右サイドバック)が自陣タッチライン際から内側にポジションを移し、味方センターバックの手前付近でボールを捌いたことも、川崎Fが防戦一方に陥らなかった要因のひとつ。橘田、瀬古、山根が立ち位置を変えたことで柏はハイプレスを躊躇するようになり、[4-4-2]の守備隊形のままセンターサークル近辺や自陣へ撤退している。前半20分以降の、川崎Fの試合の主導権の手繰り寄せ方は巧みだった。
柏が活かしたかった好機
試合全体を通じて柏の[4-4-2]の守備ブロックは強固で、最前線、中盤、最終ラインの3列の距離感もコンパクトに保たれていたが、それだけに前半23分に訪れたカウンター発動のチャンスを活かしたかった。
ここでは川崎Fのパス回しを敵陣左サイド(川崎Fにとっての自陣右サイド)へ追いやり、左サイドハーフとして先発したMFマテウス・サヴィオが山根にプレスをかける。縦のパスコースを塞がれた山根は、自身の左隣に立っていた橘田へパスを出した。
山根のパスを受けた橘田に、柏のFW細谷がプレスをかけてボール奪取を試みたが、後方から橘田を躓かせたためファウルと見なされてしまう。連動性溢れるプレスで川崎Fのパス回しを片方のサイドへ追いやったうえ、山根の横パスに対する細谷の反応も素晴らしかっただけに、ファウル無しでボールを奪いきり速攻に繋げたかった。
今回のように拮抗した試合では、こうした細部が勝負の分かれ目となる。ファウル無しでボールを奪いきる。これが細谷の伸び代のひとつだろう。
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