福岡が生んだスター選手
出身地とはいえ、井手口が福岡で過ごしたのは小学生まで。受け入れてもらえるか不安もあったようだが、本人が思う以上にクラブとサポーターにとって、井手口加入の影響は大きなものだった。知名度があり「元日本代表」の肩書きを持つ選手は貴重な存在。地元メディアからの扱いが決して良いとはいえない福岡にとって、願ってもない獲得となった。
J1復帰を果たした2021シーズン以降の福岡は、ボランチは常に人材不足で、チームの心臓であるMF前寛之のタフさに依存していた。2021年夏に加入したMF中村駿が一定の安定感をもたらしたものの、層の薄さ問題が解決することはなかった。チームの軸となる「球際の強度」がハイレベルな井手口は、そんな福岡にとってまさに打って付けの存在だった。
また、福岡のサポーターは地元への愛着が強いとされ、地元出身選手への愛情も深い。故郷を離れて長いとはいえ「地元が生んだスター」である井手口には大きな期待が寄せられた。
ところが、サッカーの神様はまたしても彼に試練を与える。2023シーズンJ1第3節(3月4日)の柏レイソル戦を初スタメンで飾り、プレー面でも「らしさ」を感じさせていた井手口は、前半終了間際にまさかの負傷。しかも、右足関節外果骨折で「全治3か月」という重症だった。セルティックでの悪夢を思い起こさせる、そんなスタートとなってしまったのだ。
あのミドルシュートを再び!
しかし、これまで2度の海外移籍で経験した苦境や負傷は、井手口にとって決して無駄な時間ではなかった。福岡加入後すぐの負傷にも「試合の時はちょっときつかったですけど、翌日からは大丈夫でした」と気持ちを素早く切り替えて対応する。
実戦復帰を目指すモチベーションも高かったのだろう。全治期間とされていた「3か月」直後、前述のJ1第17節(6月3日)ガンバ大阪戦にて復帰。古巣となる大阪との対戦は、思い入れの強い相手ということもあり、試合に向けて見事に調整しベンチ入りを果たした。更に後半16分からの約30分間は、ピッチに立つことにも成功した。
復帰前「チーム(の調子)どうこうより、まず自分のコンディションを上げていかないと話にならない」と語っていた井手口だが、復帰後は「チームの役に立ちたい」と話しているように、良いプレーでチームに貢献したいという思いは強いようだ。
福岡は現在、5月3日のJ1第11節FC東京戦を最後に白星がなく、一時は3位だった順位も二桁台まで落ちてしまった(現11位)。だが、昨2022シーズン(結果14位)も2021シーズン(結果8位)も、後半から終盤に連勝して順位を上げており、ここから巻き返す可能性は十分にある。
井手口に試合勘が戻り、本来のボール奪取能力や運動量が遺憾なく発揮され、日本中を沸かせたあのミドルシュートを再び見せつけてくれれば、福岡の成績も上方修正されるに違いない。
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