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レオ・ザ・フットボールが新書籍に込めたサッカーの真理【インタビュー】後編

©︎シュワーボ東京

「論理性に注目が集まるサッカー界になってほしい」

ーシュワーボでは、選手獲得のためのセレクションを実施されています。今回の書籍で紹介されている理論への順応性が高い選手は、どれほどいましたか。

レオ:2回目のセレクションでは誰も獲っていないですし、1回目も100人参加してくれて最初に入団を認めたのが14人くらい。そこから今残っているのが5人くらいですね。

ーそれを踏まえると、この書籍を世に出す意義は凄くありますね。

レオ:そうですね。ただ、僕に言われて直せる選手と、今までやってこなかったからできない選手の両方が当然いますね。僕はバスケットボールをやってきた人間で、サッカーの技術のつけ方については真っさらな状態でした。なのですぐに正対理論などを覚えることができたんですけど、そうでない人にはなかなか浸透しないです。

未だに「ショートパスのときに出し先を見ろ」といった指導が広まっているそうで。ショートパスの蹴り方についても、自分の理論が正しいかどうか、僕はいろいろなYouTubeチャンネルを見て研究しました。それで分かったのですが、考え方や言っていることが僕と一緒の人が良いパスを出せているんです。

反対に、あるJクラブのYouTubeチャンネルに登場した指導者は、未だに「出し先を見てしっかりやろう」と言っている。権威性のあるほうが逆にアップデートしないものですね。そうした場で育って、プロになれなくてうち(シュワーボ)に来た選手が、「今まで教えられてきたことと違う」という話になる。それまでのノウハウで活躍してくれれば良いですけど、僕の理論は活躍している人の共通点から作られたものなので、当然その選手は活躍できない。

人間誰しも、肩書で人を見るものですけど、上手くなるための論理性に注目が集まるサッカー界になってほしいですし、この本がそれの礎になれば嬉しいです。

ー理論はあるけどノウハウが書かれていなかったり、ノウハウは書いてあるけど何が本質になって生まれたメニューなのかが不明瞭と、大半のサッカー書籍がどちらかに当てはまるんですよね。ここまで理論と実践が噛み合った書籍はなかったと思います。

レオ:僕の場合、その瞬間のミスを指摘したくないんです。ミスが起こりにくい方法を教えるのが、指導者の本来の役割なので。上手くない人に上手くないと言うのは簡単ですよね。「ワンタッチパスを浮かすな」ではなく、「ボールを平行に蹴れば、ワンタッチパスは浮かない。軸足を固定してしまうと、振り足が下から上に上がってボールが浮きやすい。軸足の力を抜けば、振り足が平行にボールに当たりやすいから、ダイレクトパスでも浮きにくいよ」といった指導を心がけています。

これを教えると、上手いけどダイレクトパスが浮いていた選手から「こうやれば良かったんですね。何で知っているんですか」という反応が返ってくる。これは僕が上手い人たちやそうでない人たちの蹴り方を見て、ポイントを整理して、自分で確かめたもので、下手な僕でも上手くいきました。それを知ってくれた選手から「この人のチームにいれば上手くなれるし勝てる」と思われる。だからこそ自分の理論に自信が持てましたし、この内容を授業や本にできました。そういったところが伝わって嬉しいです。


Leo the football氏 写真提供:KADOKAWA

サッカーの考察に必要なのは

ー競技、選手、チーム、監督の本質を伝えることに心血を注いできたレオさんが考える、サッカーの批評や解説に必要なものは何ですか。日本のサッカーメディアへの提案や提言があればぜひ。

レオ:物事の真理を知る力、人間の真理を知ろうとする力ですね。これまでの話は、サッカーに関して共通点を見出すという話でしたよね。それによってサッカーの解像度が上がっていきます。これに加えて人間の解像度を上げる。サッカーは人間がするものなので。

例えば、記者会見で怒りやすい監督は試合中の修正が下手なんですよ。なぜかと言うと、冷静になれないから。意地悪な質問をされたときに怒っていたら記事にされて、それが燃え広がって自分への逆風が強まる。冷静な監督は、意地悪な質問に面白く返して、それによってサポーターからの信仰心を勝ち取る。これでいい流れに持っていけるんです。

要は「風が吹けば桶屋が儲かる」です。Aが起きたら、B、C、D、Eまで考えられるから、Aの行動をしっかり考えようみたいな。人間という観点で注目すると、監督の選手交代の意図が分かりやすいですね。「あのときに怒っちゃって、この試合もこんな采配して、本当に悪いポイントを修正していない。だから次の試合も良くならないだろうな」という真理が見えてくる。

それで本当にその監督が解任されて「レオさん、何であのとき分かったんですか」というオカルト的な話になるんです。僕の予想が当たるのは、人間とサッカーの真理の解像度が、サッカーの話をする人のなかでは高い部類に入るから。この両方を勉強していく感じですかね。

ー長年サッカーという競技を探究されてきて、今になって分かったサッカーの魅力や醍醐味を教えて下さい。

レオ:一人では行けない場所に行かせてもらえる経験の有り難さですね。今一番それを感じているのは、監督業のなかで選手がゴールを決めたり、良い守備をしたり、試合に勝ったとき。自分ひとりでは、ここまで感動できないですから。危機を乗り越えた先の喜びも醍醐味です。

ー現時点で考え得る、レオさんの究極的な目標を教えて下さい。

レオ:シュワーボのクラブW杯制覇です。そのときにその大会があったらですけど。僕らがJリーグに上がるうえで一番大変なのは、スタジアムや練習場など、設備面でJリーグ100年構想の規定を満たせるようなクラブになること。そういう環境を用意できるのは、資本的なバックがあったとき。

今後僕は監督としてよりも、オーナーとしての能力を伸ばさないといけない。基本的にスポーツ界では、オーナーはお金を出す人と思われているんですけど、全てはリーダーであるオーナーで決まるので。いろいろな企業の社長さんとか、Jクラブのオーナーの方の足元にも及んでいないので頑張ります。

ーこの書籍を手にとってくれるであろう、サッカーを愛する皆さんへのメッセージ、そしてご自身の活動に関する、今後の抱負をお願いします。

レオ:ネガティブな意味ではなく、僕はこの書籍を遺書だと思ってます。人生は映画と違って、ここというクライマックスがあるわけではないですよね。「あそこがクライマックスだったな」と後で気づくわけで。なので、僕はいつもそう思って生きるようにしています。

今まで出したこと無いようなフルスロットルの本を出します。僕が事故かなんかで亡くなったときに「これ書いた人凄いな」と思われるような本にしたいと思い、妥協せず(株式会社KADOKAWAの)笠原さんにわがままを言って、こだわりを込めた箇所もあります。読む人が肩に力を入れる必要はないですけど、そのくらいの気持ちで書いたので、ぜひ手にとって頂けたら嬉しいです。

(了)

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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